Webサービスの構築に使うアプリケーション開発ツールが相次ぎ登場する。ボーランドが2001年夏に「Delphi6」を出荷。10月には日本アイ・ビー・エムとサン・マイクロシステムズ,12月にはマイクロソフトが製品をリリースする予定である。こうしたツールを使うと,Webサービスそのもの,またはそれを利用するアプリケーションを手軽に開発できるようになる。作成の難しかったインタフェース定義ファイルを自動生成することも可能になる。

実森 仁志=hjitsumo@nikkeibp.co.jp)

 Webサービスが,一歩現実に近づいた。Webサービスの構築に使うアプリケーション開発ツールの最初の製品群が今年後半に相次ぎ登場し,Webサービスを作るための環境が整うからである。ボーランドが2001年8月に出荷する「Delphi6」を皮切りに,10月には日本アイ・ビー・エムとサン・マイクロシステムズ,12月にはマイクロソフトが,新しい開発ツールをリリースし,Webサービスに対応する(表1)。

 これまで,Webサービスを構築または利用するには,必要なミドルウエア部分までを作り込んだり,OSや開発言語ごとに用意された低レベルなAPIを直接利用したりする必要があった。しかし,RAD(ラピッド・アプリケーション・デベロップメント)環境である開発ツールが整うことで,Webサービスの構築と利用が劇的に容易になる。

販売元 ボーランド サン・マイクロシステムズ 日本アイ・ビー・エム マイクロソフト
URL http://www.
borland.co.jp/
http://www.
sun.co.jp/
http://www.
ibm.co.jp/
http://www.
microsoft.com/japan/
製品名 Delphi 6 ,Enterprise Edition Forte for Java ,Enterprise Edition3.0 WebSphere Studio 4.0 ,Enterprise 版 Visual Studio.NET,Enterprise Edition
出荷時期 2001年夏 2001年10月 2001年10月 2001年12月
製品タイプ ネイティブ・コンパイラ J2EE 準拠 J2EE 準拠 .NET Framework 準拠
SOAP1.1 対応
対応トランスポート・プロトコル HTTP HTTP HTTP HTTP
WSDL1.1 ファイル対応 読み取り/書き出し ×(対応予定あり) 読み取り/書き出し 読み取り/書き出し
UDDI1.0 対応 × ×(対応予定あり) 読み取り/書き出し 読み取りのみ
表1 Webサービス構築に対応した主なアプリケーション開発ツール

アプリケーションをプラグ&プレイで組み込み可能に

 Webサービスとは,必要なときにプラグ&プレイで利用可能な,インターネット上のアプリケーションである(日経インターネットテクノロジー2001年5月号,pp.122-141の特集1参照)。プラグ&プレイを実現するためには,Webサービスを検索したり,やり取りするデータの形式を定めたりする必要があるが,Webサービスではそのためのインタフェース仕様を標準化し,公開する。その結果,人間が介在しなくてもシステム同士を自動的に連携させられるようになる。このため,個別に管理されているWebアプリケーション同士を連動させる方法として注目を集めている。

 従来でも,CGI(共通ゲートウエイ・インタフェース)やXML(拡張可能マークアップ言語)などを活用することで,自社のシステムと他社のシステムとを連携させることはできた。しかしそのためには,あらかじめ相手先との間でプロトコルやインタフェースなどの仕様をすり合わせ,それに従ってシステムを作り込む必要があった。

 Webサービスの場合は,自社のシステムと同じ仕様をベースにしているWebサービスを探して利用したり,他社のWebサービスがサポートしている仕様に合わせて自社のシステムを開発したりするといったことが比較的容易になる。これまでのBtoBシステムのように半永久的に接続するのではなく,「必要なときに必要な間だけ動的に接続すればすむ」(マイクロソフト デベロッパー・マーケティング本部 .NETテクノロジー部 エバンジェリストグループ マネジャーの萩原 正義氏)。

インタフェース仕様の自動生成/読み込みがカギに

 Webサービスに関しては,これまでベンダー各社のコンセプト発表が先行していた感があった。ところが,今年後半にWebサービス構築ツールが相次ぎ登場し,いよいよ柔軟なシステム間連携が現実になる。

 構築ツールを利用すると,Webサービスを手軽に実装したり,既存のWebアプリケーションを低コストでWebサービスに変えたりすることが可能になる。ツールで作成したWebサービスのインタフェース仕様を「Webサービス記述言語(WSDL)ファイル」に書き出し,他社に公開することも可能だ。

 WSDLファイルは,Webサービスでやり取りするデータ型などのインタフェース仕様を定義したもの。Webサービスを利用する側は,WSDLファイルを解釈し,その仕様に合わせてクライアント・アプリケーションを開発する。開発ツールは,WSDLファイルを読み込み,その仕様に合わせてアプリケーションを開発する機能をサポートしており,Webサービスを利用するアプリケーションの実装は格段に楽になる。

 開発ツールがWSDLファイルを正しく解釈し,それに合わせてアプリケーションを開発する限り,「利用しているOSや開発言語を問わずアプリケーションを連携できる」(日本IBM ソフトウェア事業部 ソフトウェア・マーケティング エマージング・テクノロジ・エバンジェリストの米持 幸寿氏)。

写真1 ボーランドの「Delphi 6」
米ベロシゲン(http://www.velocigen.com/)が提供する翻訳用のWebサービス「Babelfish Translation Server」を呼び出すクライアント・アプリケーションを開発しているところ。Babelfish Translation Serverは,米アルタビスタが提供する「Translate with BabelFish」を呼び出すプロキシ型のWebサービスとして実装されている。
 例えば,ボーランドが8月に出荷する予定の「Delphi6, Enterprise Edition」では,ウィザードを使ってインターネット上などからWSDLファイルを読み込むだけで,リモート・メソッドの詳細を解釈し,プログラム上から呼び出せるようになる(写真1)。Webサービス上のリモート・メソッドも,開発環境が実装しているローカル・メソッドも,同じ使い勝手で利用可能。「開発者は既存の知識を活用してWebサービス対応アプリケーションを開発できる」(ボーランド 営業本部 マーケティング本部 マネージャーの大野 元久氏)。また,Delphiはネイティブ・コンパイラなので,開発したアプリケーションを稼働させるためにアプリケーション・サーバーなどを別途入手する必要はない。

 日本アイ・ビー・エムが10月に出荷する「Web Sphere Studio4.0,Enterprise版」は,現行製品であるバージョン3.5にWebサービス関連機能を追加したもの。ウィザードを利用して,既存のJavaクラスやJavaBeansをWebサービス化したり,既存のWebサービスにJSP(JavaServer Pages)やサーブレットでユーザー・インタフェースを追加したりする機能を備える。WSDLファイルの自動生成や読み込みにも対応する。12月には,Webページのオーサリング機能やJSP/Javaの開発機能などを集約し,XMLやWebサービス関連機能を強化した,新しい統合開発ツール「WebSphere Studio Workbench」も提供予定である。

 これまでは,ユーザーがWebサービスを実際に構築したり,利用したりすることは,事実上難しかった。しかし,開発ツールの登場により,企業のWebサービス対応はいよいよ本格化し,実装段階に突入することになる。