iモード端末のように,携帯電話機だけでWebアクセスやメール送受信ができるブラウザ・フォンがオープン化に向かって動き出した。まずNTTドコモがiモード・ネットワークの開放策などを打ち出した。総務省の研究会でオープン化の議論が進んでいることもあり,KDDIやJ-フォンなども,いずれ追随するものとみられる。ISP事業や課金サービスなど,現在,携帯電話事業者がほぼ独占的に提供している機能が使えるようになる。携帯向けサイトを構築,運営も自由度が高まる。

小松原 健=komatsub@nikkeibp.co.jp)

 NTTドコモの「iモード」が2200万台を超えるなど,ブラウザを搭載した携帯電話,いわゆるブラウザ・フォンに向けたサービス提供は,多くの企業にとって重要な命題となっている。

図1 モバイル・インターネットは携帯電話事業者が独占
ブラウザ・フォン向けにISPやポータル・サイト,コンテンツ(プロバイダ)が自由にサービスを展開できない。電話回線/ISDNや専用線を使ったインターネットでは,それぞれが独立して競争し,サービスの多様化,低料金化が進んでいる。

 しかし,ブラウザ・フォン向けのインターネット接続サービスは,携帯電話事業者が独占しており,ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)は提供できない。企業が携帯向けサイトを構築,運営するにも事業者の“お墨付き”をもらえるかどうかで条件が大きく変わるという課題がある。

 こういった状況が改善に向かって動き出した。NTTドコモの立川 敬二社長が3月22日に「2003年春にiモードのネットワークをISPに開放」など,オープン化に向けた方針を発表した。ほかの事業者は「ISPへのネットワークの開放については検討中」(KDDI au事業本部au商品企画部モバイルインターネットグループ課長補佐の鴨志田 博礼氏)という段階であるが,いずれ追随するとみられる。この背景には,総務省が主催する研究会が,ブラウザ・フォン向けサービスを活性化させるため,オープン化について議論を進めていることがある。

 モバイル・インターネットのオープン化が進めば,サービスの多様化や料金の低廉化が期待できる。携帯電話事業者に独占されているインターネット接続やメールといったサービスに,ISPなどが参入し,競争が進むからだ。ブラウザ・フォンに向けたデータセンターも誕生するだろう。

モバイルは独特の構造

 ブラウザ・フォン向けのモバイル・インターネットは,独特の形態になっている(図1[拡大表示])。インターネット接続やポータル,それにコンテンツ・プロバイダまで,携帯電話事業者が独占的に提供している。iモードやJ-フォンの「J-スカイ」は,ユーザーを識別したりするためにユーザーIDを提供するWebサイトを限定している。公式サイトと呼ばれる,事業者が認めたサイトだけがユーザーIDを利用できる。

 事業者が提供する携帯電話料金と併せて料金をユーザーから徴収してくれる料金回収代行サービスも,公式サイトしか利用できない。たとえ,これらの制限を独自の工夫によって乗り越えても,そもそも公式サイトとしてポータル・メニューに登録してもらえなければ,多くのアクセスを望むのは難しい。

 携帯電話事業者がコンテンツまですべてのメニューを提供したのは,iモードなどの新サービスの立ち上げには必要な戦略といえる。ユーザーIDや料金回収代行サービスを提供するサイトを限定したのは,プライバシを保護したり,悪質なサービスからユーザーを守ったりするという意味がある。

 しかし,ISPや携帯サイトを運営する企業にとって,公式サイトに認めてもらえるかどうかが死活問題になりかねない。公式サイトに認められなければ,勝手サイトとしてハンディキャップを背負ったままビジネスを展開することになる。

図2 ドコモはISPと直接接続する仕組みを2003年春に実現
「iMenu」ボタンを押したときに,ドコモ以外のISPと接続するように設定可能にする。

ドコモがオープン化を打ち出す

 NTTドコモが3月22日に打ち出したオープン化への具体策は,大きく3つ。(1)公式サイトの採用基準をWebサイトで公開,(2)2003年春にiモード接続をISPに開放,(3)料金回収代行サービスを提供するかを今後設立される評価機関の判断に従う――である。

 (2)のiモード接続機能の開放は,ドコモのパケット網とISPのネットワークを直接接続できるようにすることである。iモードで「iMenu」ボタンを押すだけで,ISPのネットワークに接続される(図2[拡大表示])。メール・サービスや料金回収代行など,ISPが自由に提供できるようになる。

 「今年の秋にISPなどに接続インタフェースを公開」(NTTドコモ 企画調整室長の藤原 塩和氏)し,システムの開発,相互接続試験などを経て,2003年春にはiモードでISPに接続できるネットワークが完成する。

 すでにiモード端末には「ほかのISPに接続する機能を組み込んである」(NTTドコモの藤原氏)。端末の設定メニューで,「iモードセンタ」の代わりに,ISPのセンターに接続するための電話番号を設定できるようになっている。

 第三者の評価機関は,2002年に設立される予定である。公式サイト以外にも料金回収代行の利用への道が開ける。

 こういったドコモの開放策の背景には,総務省が主催する2つの研究会の動きがある。2000年7月に発足した「次世代移動体通信システム上のビジネスモデルに関する研究会」と,2000年11月からの「モバイルコンテンツビジネスの環境整備の方策に関する研究会」である。研究会には,携帯電話事業者やコンテンツ・プロバイダ,システム・インテグレータなどが参加する。いずれも,ビジネスの活性化を図るため,モバイル・インターネット環境のオープン化について検討している。

 2001年5月から順次始まる次世代携帯電話サービス「IMT-2000」の前に,これまでの問題を整理,解決し,「工夫に任せて自由な競争ができる環境を作る」(総務省 情報通信政策局情報通信政策課コンテンツ流通促進室課長補佐の吉田 恭子氏)ことを目指している。

 ほかに,総務省が検討しているドミナント(支配的な事業者)規制に対するけん制という見方もある。いまやドコモの市場シェアは60%を超えており,規制を避けるために,先に開放策を打ち出したという見方である。

 オープン化とは別に,コンテンツ記述言語の統一化も見えている。現在,WAP(無線アクセス・プロトコル)フォーラムが標準化を進めているWAP NG(次世代)の仕様を採用していくとみられる。KDDIは以前からWAPの採用を表明しており,NTTドコモも「世界に合わせる」(NTTドコモ コンテンツ開拓担当課長の山口 善輝氏)とする。Compact HTML,HDML(ハンドヘルド・デバイス・マークアップ言語)など,複数のコンテンツを用意する手間が軽減される。

図3 モバイル・インターネット(ブラウザ・フォン)の料金は高い
モバイル・インターネットの料金は,有線のインターネットに比べて高く,アクセス回線料とインターネット接続料が一体となっており,料金が適正かどうか判断しにくい。

時期や料金などに課題

 オープン化に当たり課題はある。1つは実現時期である。ドコモの場合,ISPとの接続が2年後としているが,「そのときには勝負が決まっている」という声がISPなどから挙がっている。iモードはもちろん,FOMA(ドコモのIMT-2000サービス名)がいったんシェアを取ったあとに,それを覆すのは至難の技ということである。

 オープン化を考えるとき,そもそも,現行のゲートウエイを介した接続形態がいいのかという声もある。携帯電話機にIPプロトコル・スタックを実装すれば,ゲートウエイなどを使わずにインターネットにアクセスできる。ISPやポータル・サイトの選択は,ユーザーの自由になる。すでに,この形態のPHS向けサービスを,東京通信ネットワークやNTTドコモが提供している。

 しかし,普及状況は必ずしもよくない。料金がパケット課金ではなく,時間課金という問題もあるが,端末コストがかさむことが難点である。IPプロトコル処理はCPUパワーなどを必要とするため,そのコストは「数千円では済まない」(東京通信ネットワーク 技術部アステルサービス開発グループ マネージャーの川端 文雄氏)という。

 また,ドコモが公開した公式サイトの採用基準は,あくまでも「ドコモの考え方がわかるはず」(立川社長)というもの。基準を満たしても,公式サイトになれるとは限らない。

 料金回収代行を提供するサイトを審査する第三者の評価機関として,「権限と責任のある組織」を作れるのかと疑問視する声もある。責任を負うのを恐れ,“及び腰”の評価では意味がない。

 大きな課題が料金である。携帯電話事業者がISPにネットワークを開放するといっても,料金をどのように設定するかによって使いやすさが大きく変わってくる。現在は,ブラウザ・フォンのサービス料金は,アクセス回線料とインターネット接続料がほぼ一体になっている(図3[拡大表示])。ドコモは,iモードを利用するために必要な月額300円のうち,100円がiモード使用料。KDDIは通信料金に含まれているとしている。

 たとえばドコモの場合,メールなどのサービスを利用しないで,ISPのサービスを選択しても月額100円しか安くならない。ISPにしてみれば,インターネット接続やメール・サービスを提供しても,料金を月額100円以下に設定しなければ競争力がない。

 そもそも携帯電話の通信料金は,有線の電話などに比べて高い。IMT-2000で,大容量コンテンツを提供するようになった場合,たとえ,ドコモが表明しているように“現行料金の5分の1から10分の1”に設定したとしても,割高感は否めない。まだまだ検討すべき課題は多い。