インターネットのバックボーンの中心であるIX。そのIXが,国内で急速に拡充されつつある。従来のIXに加え,新たにIXサービスを提供する事業者が相次いで登場してきた。加えて,既存のIXも性能強化を進めている。背景にあるのは,eビジネスの活発化。eビジネスでの利用に耐える強固なインフラとして,各社が高速化と信頼性向上を図る。また,新たに登場してくるIXは,データセンターとしての機能を併せ持ち,複数ISPに高速に接続できる環境を提供してくれる。

(河井 保博=kawai@nikkeibp.co.jp)

 インターネットの心臓部とも言えるインターネット・エクスチェンジ(IX:インターネット相互接続点)。国内で,そのIXにかかわる動きが活発化している。既存のIXが高速化,分散型化を進める一方で,新たにIXを展開しようという事業者が相次いで登場してきた。

 IXは,異なるISP(インターネット・サービス・プロバイダ)のバックボーン同士を相互接続する拠点やサービス。国内では,WIDEプロジェクトが学術研究用として運用するNSPIXP-2と,日本インターネットエクスチェンジ(JPIX)の商用IXがある。ISPは,IXに接続する他のISPと経路情報を交換することで,相互のバックボーン・ネットワークに乗り入れられるようになっている。

 例えば,国内のデータセンター事業のパイオニアとも言えるインターネットマルチフィードは,2001年4月,IXサービス「JPNAP」を開始する。2002年には光信号のままスイッチングする光波IXを目指す。同様に,アジア太平洋地域を中心に国際的なIXを展開する米ピハナ・パシフィックも,日本でのIXサービスを開始する。一方,すでに国内でIX事業を展開しているJPIXは,多拠点での分散型IXの構築を進めている。

IXをeビジネス支える“強い心臓”に

図1●新IXの登場と既存IXの強化の背景
ユーザー数の増加などにともなって,トラフィックが増加し,IXの高速化が進んだ。さらに,CATVやADSLなどの普及により,IXにはギガビット/秒クラスの処理能力が求められている。一方,eビジネスが活発化し,ネットワークの信頼性向上も重要になってきている。こうした背景で,新たにIX事業に参入する事業者が登場。既存のIXも強化を進めている。

 これらの動きの背景の1つは,衰えを知らないインターネット・トラフィックの増加。そして,もう1つが,eビジネスの活発化によって,インターネット・インフラに信頼性が求められるようになってきたことである(図1[拡大表示])。

 もっとも,IXが強化され,新たなIXが登場しても,「今すぐにエンドユーザーに何らかのメリットがもたらされるわけではない」(インターネットマルチフィードの技術部次長である外山 勝保氏)。大手ISPがIXに接続すると同時に,個別に他のISPと相互接続(プライベート・ピアリング)していることもあって,日本の場合,IXはインターネット・バックボーンのボトルネックにはなっていないからだ。

 ただ,トラフィックの増加は,CATVなどアクセス回線のブロードバンド化に伴ってますます激しくなりつつある。たとえば,JPIXでは「IXスイッチを通過する全体のトラフィックが2Gビット/秒を超えるのは2001年秋と見ていた。ところが,2001年2月にはすでに1.9Gビット/秒にも達してしまった」(JPIX社長である小林 洋氏)という。その原因の1つがブロードバンド化の浸透にあると見る。当然,IXも高速化を余儀なくされる。

 一方で,eビジネスの浸透に伴い,インターネットに対する品質や信頼性のニーズが高まっている。ISPのバックボーンやアクセス回線などと同様に,IXについても強化が求められる。そこで,各社は,そのトラフィックをさばき,品質を落とさずにデータを中継できるだけの強い心臓を作ろうとしているのである。さらに,新たに登場してきたIXは,インターネット・データセンターとIXを融合させることで,Webサイトに対してより高速なインターネット接続環境を提供しようとしている。

高速化と分散型への移行が進む

図2●IXは高速・分散型へと変わりつつある
多拠点でスイッチングする分散型への動きと,高速化の動きが見られる。分散型になると,ネットワークやスイッチを冗長に設置できるため,耐障害性が高まる。また,拠点での折り返しが発生するため,負荷分散も実現できる。高速化という点では,ギガビット・イーサネット,10Gイーサネットなどの技術・製品の導入が進む。インターネットマルチフィードは,光信号のままスイッチングする光波IXを目指す。

 例えばJPIXは,2000年5月にFDDIスイッチをギガビット・イーサネット・スイッチにリプレースした。さらに,「10Gビット・イーサネット・スイッチ製品の登場を待って,順次移行を進めたい」(小林社長)と,さらなる高速化も目指している(図2[拡大表示])。インターネットマルチフィードの光波IXも高速化への取り組みだ。光波IXは,光クロスコネクトと呼ばれるスイッチを利用して,光信号を電気信号に変換することなく,光信号のままISP間のデータを中継するもの。数Gビット/秒以上のスイッチングが可能になる。

 分散型IXへの移行もインフラ強化の一環。信頼性を高めようという動きである。IXが1カ所にしかないと,仮にそのIXに障害が発生すると,ISP間のトラフィックが滞ってしまうことになる。そこで,複数の異なる拠点にスイッチを設置し,それぞれの場所でISPからのネットワークを収容する。スイッチ間を独自のネットワークで接続し,点ではなく面でIXを構成する。

 JPIXは,すでに東京の臨海部に第2センターを開設して分散型IXを構成した。さらに,近く名古屋に第3センターを開設する。また,WIDEプロジェクトもNSPIXP-2の分散化を検討している。マルチフィードは東京に2カ所の拠点を設置する。ピハナの場合は,アジア太平洋地域で複数のデータセンターを持ち,それぞれのデータセンターでIXを運用する。スイッチ,拠点,そして運用主体が違うそれぞれのIXに各ISPが接続すれば,IXの信頼性は向上する。

データセンターとの融合も

図3●新たに登場してきたIXはデータセンターとの統合型
米ピハナやインターネットマルチフィードは,インターネット・データセンターとIXの両方の役割を持ち,IXはデータセンターの付加価値サービスとしての意味合いが濃い。コンテンツ・プロバイダから見ると,どのISPのネットワークにも近く,大容量の回線で接続できる。

 インターネットマルチフィードとピハナ・パシフィックのサービスは,Webサイトに対して直接メリットをもたらす。データセンターとしての機能を併せ持つからだ(図3[拡大表示])。

 大量のアクセス要求を受け付けるWebサイトにとっては,高速なネットワーク環境は不可欠。ネットワークのボトルネックを回避するには,インターネット・バックボーンに直結するのが一番である。この点,IXにWebサーバーを直結すると,IXに接続するすべてのISPのバックボーンに直結しているのとほぼ同様の環境を手に入れられる。この点こそが,マルチフィードやピハナの最大の売り物である。

 実際には,JPIXも場所貸しをしている。例えばマイクロソフトや日本経済新聞社など,JPIXの施設にサーバーを設置しているコンテンツ・プロバイダはいくつもある。この点では,データセンターと同じに見える。

 ただ,JPIXのサービスはあくまでもネットワーク・サービス・プロバイダ(NSP)向け。利用できるユーザーが限られる。ISPと同様に,AS(オートノマス・システム:自律システム)番号を取得し,自らネットワークを運用していることが前提になっている。さらにJPIXのサービスは,あくまでもネットワーク機器やサーバーといった設備を設置するための場所を提供するハウジング(コロケーション)。サーバーの運用を代行してくれるホスティング・サービスではない。

 ただし,マルチフィードやピハナのIXにも弱点がある。ISPの接続実績がないことである。ユーザー,つまりISPやWebサイトにとっては,IXに数多くのISPが接続していることこそが最大の魅力になる。いくら高速な接続環境があっても,IX事業者が運用能力に優れていても,できるだけ多くのISPにピアリングできる環境がなければ,IXとしては成り立たない。

似て非なるサービスも選択肢に

図4●IXに似て非なるサービスもある
米インターナップのサービス,米アバヴネット・コミュニケーションズのサービスは,どちらも複数のISPに接続する点でIXに似ているが,基本的にIXとしてのISP間のトラフィック交換サービスは提供しない。インターナップの場合は,バックボーンにISPのネットワークを利用する企業ネットワーク向けのサービス。

 IXをデータセンターの付加価値として見ると,IXと似て非なるサービスもWebサイトにとっての選択肢に上る。米インターナップ(InterNAP)のサービスや,アバヴネット・ジャパンなどのデータセンター・サービスである。

 インターナップは,NTTエム・イー(NTT-ME)と2001年4月をメドに合弁会社を設立し,2001年夏にもインターナップのサービスを国内で展開する。インターナップは,P-NAP(プライベート・ネットワーク・アクセス・ポイント)と呼ぶアクセス・ポイントを世界中に設置。自前のバックボーンは持たず,P-NAP同士の間をISPのネットワークで接続する「仮想バックボーン」を構成する(図4[拡大表示])。ユーザーとP-NAPの間は専用線などインターネットとは別のネットワークで接続。P-NAPがその時点で最速の経路を提供するISPを自動検出し,データを転送する。いくつものISPがP-NAPに接続する点ではIXに似ているが,仮想バックボーン上では基本的に1つのISPのネットワークしか経由させない。

 インターナップ自身はデータセンター・サービスを提供しないが,日本の場合,合弁会社が,P-NAPをNTT-MEのデータセンター内に設置。ハウジングなどのサービスも合わせて提供する。このため,Webサイトから見ると,P-NAPはさまざまなISPに接続しているデータセンターに見える。

 一方,アバヴネットは,独自のバックボーン・ネットワークを持ち,世界的に設置したデータセンター間を結んでいる。Webサイト向けだけでなく,ISPに対してもサーバーやネットワーク機器を設置するための場所を提供する。ISPに対しては,別のISPとのプライベート・ピアリングのサービスも提供する。また,国内ではJPIXにも接続。この点では,マルチフィードやピハナのサービスに非常に近い。