急速に注目を集めているPtoP(ピア・ツー・ピア)型ソフト――。このPtoP型ソフトの基本機能を,共通化しようという動きが出てきた。米サン・マイクロシステムズは,「Juxtapose(JXTA:ジャクスタ)」と呼ぶプロジェクトを発表。PtoP向けの通信機能やセキュリティ機能などを実装した基本ソフトを,2001年4月にオープン・ソースで公開する。一方インテルは,2000年8月に設立した標準化組織を本格始動させた。

(安東 一真=andoh@nikkeibp.co.jp)

 急成長した米ナプスタの音楽ファイル交換サービスなどによって,脚光を浴びているPtoP(ピア・ツー・ピア)型ソフト。このPtoPの基本機能を,共通化しようという動きが出てきた。狙いは,異なるベンダーのPtoP型ソフトやサービスの間で相互運用性を確保し,利用を拡大することだ。

 米国では,昨年からPtoP型のソフトやサービスが爆発的に増えている。情報共有,コラボレーション,情報検索,科学計算処理といったものである。

 ところが現在のPtoP型ソフトは,それぞれ利用しているプロトコルやセキュリティ機能がバラバラだ。コラボレーション用のPtoP型ソフトで,互いにメッセージを交換するといったこともできない。そこでPtoP型ソフトの共通基盤ができあがれば,サービス同士の相乗効果が望める。

 PtoP型ソフトの基本機能の共通化に向けて名乗りを上げたのは,米サン・マイクロシステムズと米インテルの2社である。特にサンの思い切ったアプローチは注目に値する。

 サンが主催するPtoP型ソフト・プロジェクトは「Juxtapose(JXTA:ジャクスタ)」と呼ぶ。米サンフランシスコで2月14~16日に開催された「The O'Reilly Peer-to-Peer Conference」で公表したものだ。同プロジェクトは,PtoP型ソフト向けの通信機能やセキュリティ機能などを実装したソフトを4月に,オープン・ソース・ソフトとして公開する(公開先はhttp://Collab.net)。公開後は,仕様の変更・追加に関する議論にだれでも参加でき,ソース・コードを改変できる。つまりLinuxの開発で力を発揮したコミュニティ・モデルでの標準化を進める考えだ。

サービス仕様の記述法を標準化し 広く交換可能に

 JXTAを使うことで「個々のマシンが持つサービスについて,その内容や必要なコンピュータ資源(CPUやメモリー)などを記述する仕様が定まり,それを基にマシン間でネゴシエートできるようになる」(サン・マイクロシステムズ チーフ・サイエンス・オフィサのジョン・ゲージ氏)。サービスの記述を基に,そのサービスの実行を許可するかどうか,許可した場合,どれくらいのコンピュータ資源を割り当てるのかを,マシン間で交渉するのである。サービスの記述にはXML(拡張可能マークアップ言語)を使う。

 このほか,PtoP型サービス間の通信機能や,悪意のあるプログラムの実行を禁止するセキュリティ機能,マシンやサービスをグループ化する機能,複数のマシン上で動作するプログラムを制御・監視する機能などを用意する。

 もっともJXTAの詳細は,まだ不明な点が多い。例えば,好みのサービスを探すディレクトリ機能。JXTAでは,「サービスの情報を集中管理するサーバーは使わない」(ゲージ氏)という。サービスの所在を示すディレクトリ情報もPtoP型でやり取りするようだが,実際の仕組みは不明である。

 その一方で,サンは3月6日に,PtoP型の検索エンジンを開発する米インフラサーチを買収し,この技術をJXTAプロジェクトに取り入れると発表した。インフラサーチは,PtoP型ソフトの「グヌテラ」の開発者であるジーン・カーン氏が設立した会社である。

インテル陣営は標準化と製品化が並行

 一方のインテルは,PtoP型ソフトのベンチャー企業などと共同で,標準仕様の策定を進めているが,いまだその仕様を世に問うまでに至っていない。標準化団体である「ピア・ツー・ピア・ワーキング・グループ」(P2PWG)を設立したのは2000年8月。それから半年を経て,標準化委員会の議長などを2001年2月に選出,作業をようやく本格化させたばかりである。

 今後,標準化を進める項目は,通信プロトコルや,セキュリティ機能,ディレクトリ機能などで,明確に示されている(図1[拡大表示])。特に「ファイアウォールを経由する場合でも,PtoP接続を可能にする技術が必要」(インテルCTOのパット・ゲルシンガ氏)という。

 P2PWGの標準化案が出るのはサンよりも遅れそうだが,20社を超える参加ベンダーは,標準化と並行して,PtoP製品の開発を急いでいる。

 その中でも注目は米XディグリーズのPtoP向けディレクトリ・システム「XRNS」だ。XRNSは,ファイルだけでなく,PtoP型サービスの登録と検索・提供を自動化する(図2[拡大表示])。

図1●標準化グループ「ピア・ツー・ピア・ワーキング・グループ」が注力している技術項目
ピア・ツー・ピア(PtoP)型ソフトの相互運用性を確保するのが目的。標準化作業は,米インテルが主導で進めており,ピア・ツー・ピア型ソフトを開発するベンチャー企業などが参加する
図2●米XディグリーズのPtoP向けディレクトリ・サービス「XRNS」の仕組み
XRNSは,ファイルやサービスなどのリソースが,どのマシンにコピーされているかを一元的に管理する。クライアントからファイルなどの所在を問い合わせられると,ファイルを持つマシンの中で,クライアントに最も近いものを教える

 XRNSは,ユーザーからファイルやサービスの検索要求を受け取ると,そのファイルやサービスを持つマシンの中で,ユーザーに最も近いものを選んで検索結果として返信する。このとき,選んだマシンが接続可能かどうかもチェックする。選んだマシンの電源や,インターネットへの接続が切られている場合があるからだ。接続不能ならば別のマシンを探し出す。こうして「接続可能で,かつユーザーに最も近いマシン」が選ばれる。

 XRNSを使って,ファイルやサービスをコピーすると,コピーしたマシンを自動的にディレクトリに登録する機能もある。ファイルやサービスの検索要求を受けたときに,より多くのマシンを候補として示せるようになる。各マシンで動作させる専用のクライアント・ソフトが,新たにファイルやサービスがコピーされたことをXRNSに通知する。

 XディグリーズはXRNSを,PtoP型ソフトやサービスを開発するベンダーに向けた,ツールキット製品として提供する。評価版を2001年第2四半期に出荷する予定だ。