iモード端末にJavaアプリケーションをダウンロードして実行できるサービス「iアプリ」が始まった。携帯電話は,パソコンやPDAと同じように,好みのアプリケーションをあとから追加できる汎用端末になる。iアプリには,プログラム・サイズが10Kバイト以下などという制約があるものの,工夫次第で多様なアプリケーションを開発できる。通信プログラムの開発を容易にする通信ミドルウエアも登場した。KDDIは,機能制限を設けない新サービスを年内に提供する。

(安東 一真=andoh@nikkeibp.co.jp)

 iアプリの登場によって,携帯電話はパソコンやPDA(携帯情報端末)と同様の「汎用端末」への道を歩み始めた――。

 NTTドコモは1月26日,Javaアプリケーションをインターネット経由でダウンロードして,携帯電話上で実行するサービス「iアプリ」の提供を開始した。同時に対応携帯電話機として「503iシリーズ」を2機種発売した。

 従来の携帯電話では,あらかじめ組み込まれた機能しか利用できなかった。iアプリを使えば,自由に機能やサービスを組み込めるようになる。プログラム・サイズが10Kバイト以下などという制限があるものの,工夫次第で複雑な機能も実現できる。

 J-フォン・グループとauグループも,2001年末までにiアプリと同様のサービスを開始する予定である。PDAやパソコンのように,携帯電話向けにさまざまなアプリケーションが登場するという日が近づいている。

汎用のJavaが使える

 いまのところ,登場しているアプリケーションは,リアルタイムの株価情報サービスや,ゲーム,動きのある待ち受け画面など。それほど目新しいアプリケーションとはいえない。しかし,その潜在能力は見逃せない。

 なによりも,Javaという汎用プログラミング言語を使える点が大きい。携帯電話用という“くせ”はあるものの,既存のプログラマが容易にプログラムを開発できる。

 また,サーバー上のプログラム(オブジェクト)を起動する「RMI」(遠隔メソッド起動)を使うためのミドルウエアも登場している。NTTソフトウェアの「BLUEGRID」と,フレックス・ファームの「x-ORB」である。これはRMIをiアプリのHTTP/HTTPS通信に変換するライブラリを用意する。RMIベースでWebサーバー上のプログラムを呼び出せるようになる。

 「エージェント」機能も魅力である。最短で1時間に1回,Javaアプリケーションを自動起動する機能である。株価のチェックのほか,「グループウエアのスケジュールが更新されたかどうかなどのチェックに使える」(サイボウズ 開発部プロダクトマネージャの石谷 雄一郎氏)。

 携帯電話は,十分高速なコンピュータといえる。「任天堂のゲームボーイと比べるなら,速度,色数,音質のすべてで上回る」(ドワンゴ マーケティングマネージャーの永井 宜弘氏)という。この高速コンピュータは,多くのユーザーが常に持ち歩き,いつでもネットワークにアクセスできるという大きな特徴をもつ。「携帯電話ならではアプリケーションは今後きっと出てくる」(ドワンゴの永井氏)という期待は大きい。

ユーザー・インタフェースを向上

 iアプリとして,EC(電子商取引)サービスや社内のWebシステムのための専用クライアントを搭載すれば,従来のブラウザよりも,ユーザー・インタフェースを向上させられる。

 専用クライアントなら,1度データをダウンロードすれば,ネットワーク・アクセスなしにデータの見せ方をいろいろ変えられる。例えばサイバードとゼンリンは,地図を閲覧するiアプリ・サービス向けに,ベクトル・データの地図情報を提供している。地図情報を1度ダウンロードすれば,ネットワーク・アクセスなしに,地図を拡大・縮小したり移動させたりできる。

 クライアント側でサーバー処理の一部を請け負うため,サーバーの負荷が下がる利点もある。必要項目の入力漏れを端末側でチェックするだけでも,アクセスの多いサーバーの負荷軽減に役立つ。

図●Java対応iモード端末のアプリケーション実行環境
アプリケーションのサイズは最大10Kバイト。アプリケーション終了後も保存されるデータ領域「スクラッチパッド」が5Kバイト以上用意されている。電話機能などのローカル・リソースへのアクセスと,アプリケーションのダウンロード元以外のWebサイトへのアクセスは禁止。

10Kバイトの制限でも機能は多様に

 iアプリ用のJavaアプリケーションには,携帯電話ならでは制約がいくつかあるが,工夫次第で多機能なアプリケーションを開発できる。

 制約のなかで特に厳しいのが,最大10Kバイトというプログラム・サイズの制限。9600ビット/秒という低速度で,ストレスなくダウンロードできるように規定されたサイズである。

 しかし10Kバイトでも,Webサーバーと連携すれば多様な機能を提供できる。複雑な処理はできるだけサーバー側で実行し,クライアント側は結果の表示だけを分担すればよい。例えばオセロ・ゲーム。ユーザーと対戦するコンピュータ側の次の一手は,Webサーバー側で計算して送信すると,クライアントのプログラム・サイズは小さくて済む。

 こうしたプログラム・サイズの制限も,2001年5月にIMT-2000サービスが始まれば,いずれ緩和されていくと見られる。伝送速度が最高384kビット/秒と高速化されるからである。

 避けられない制約として,Javaアプリケーションから,携帯電話が持つ電話機能や,Webブラウザの機能にアクセスできないことがある([拡大表示])。セキュリティに配慮した仕様である。このため,携帯電話のアドレス帳を編集するPIM(個人情報管理)ソフトなどは開発できない。

 このほか,画面の解像度など,端末メーカーごとの実行環境の違いにも注意が必要になる。同じAPIを使ってプログラムを開発しても,ボタンやテキスト・ボックスの画面上の配置が,機種ごとに変わってしまう。JavaのAPIをメーカー独自に拡張することも認められている。機種間の性能の差も激しく,現在開発中の機種も含めると,実行速度で10倍以上も違うという。

KDDIは端末データもアクセス可能に

 KDDIは,iアプリとは異なるコンセプトのアプリケーション・サービスを提供する予定である。ダウンロードしたプログラムで,端末のすべての機能をアクセスできるサービスだ。米クアルコムが開発した携帯電話向け実行環境「BREW」を利用する。BREWでは,ブラウザ自体も開発できる。KDDIは,iアプリと同様のJavaサービスを2001年夏に開始し,2001年中にBREWを利用したサービスを提供する。

 悪意のあるプログラムの開発を防ぐため,BREWのAPIは一般には公開しない。アプリケーションを開発するには,クアルコムとの契約が必要である。KDDIは,Java環境とBREW環境をうまく使い分けていきたい考えだ。