ブロードバンド・サービスが加速している。NTT東日本/西日本のフレッツ・ADSL(非対称ディジタル加入者回線)サービスがそのけん引役である。全国の大都市圏で,1.5Mビット/秒の常時接続サービスが月額6000円前後の手ごろな料金で提供される。これに対抗して,東京めたりっく通信などの競合事業者がサービスを拡充する。また,光ファイバを利用して10Mビット/秒で接続するFTTH(ファイバ・ツー・ザ・ホーム)も2001年春から商用サービスが始まる。

加入者回線に光ファイバを用いて,10Mビット/秒程度で接続するFTTH(ファイバ・ツー・ザ・ホーム)も現実になりつつある。NTT地域会社やユーズコミュニケーションズ(http://www.usen.co.jp/)が一部地域で試験サービスを開始した。2001年中ごろには商用サービスが始まる見込みである。KDDIも自社で光ファイバ網を運営する意向を明らかにしている。
サービスを提供しているおもな事業者を示した。FTTHはKDDIも参入の意向を明らかにしている。 |
低料金で全国展開するフレッツ
ブロードバンド・サービスのけん引役は,NTT地域会社の「フレッツ・ADSL」である。最高伝送速度が下り(収容局からユーザー宅方向)1.5Mビット/秒,上り512kビット/秒と高速である。それもサービス・エリアを急速に拡大する。2001年度の第1四半期中に東京23区全域を含む首都圏の一部と県庁所在地規模の都市にまでエリアを広げる。
このサービスは「フレッツ・ISDN」などと同様に,NTT地域会社の地域IP網を利用するため,ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)にとって対応しやすい(図1[拡大表示])。ISPは都道府県ごとに1カ所で地域IP網と接続すれば,その都道府県内のユーザーを収容できるからだ。
月額利用料金は4600円。インターネットに接続するには別途,ISPの利用料金がかかるが,たとえばぷららネットワークスの「フレッツ・ADSLセット」は月額1000円である。64kビット/秒の「フレッツ・ISDN」が月額4500円で人気を呼んでいることを考えれば,格段に高速なフレッツ・ADSLは魅力十分である。
1.5Mビット/秒がADSLの標準に
料金が手ごろでサービス・エリアの広いフレッツ・ADSLは,ブロードバンド・サービスにさまざまなインパクトを与える。1つは,フレッツ・ISDNが提供する1.5Mビット/秒が事実上,ADSLの標準速度となったこと。
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図1●NTT東日本/西日本の「フレッツ・ADSL」サービス 地域IP網を経由してISP(インターネット・サービス・プロバイダ)各社に接続する。月額利用料金は4800円から。 |
NTT地域会社が2000年12月まで実施していた試験サービスでは,最高速度を下り512k/上り224kビット/秒に設定していた。ところが,NTT地域会社は商用サービスの開始にあたって,現在の速度に引き上げた。これにより「ADSLのサービスは,もはや下り1.5Mビット/秒で提供せざるを得ない」(KDDI NW営業本部 サービス企画部 DIONグループリーダー 課長の菅 雅道氏)状況になった。
一足先にADSL接続サービスを開始したイー・アクセスは,商用サービス開始から半年足らずでフレッツ・ADSLと同じ速度への引き上げを余儀なくされた。イー・アクセスのADSL接続サービスを用いたブロードバンド・サービスを提供するISPのほとんどは,料金を据え置いたままで1.5Mビット/秒のサービスに対応する。実質的な値下げである。
ISPにも影響がある。バックボーンを高速化する必要が出てくるのだ。しかも厳しい価格競争で,コストを利用者に転嫁できない。たとえばニフティでは,無制限コース(月額2000円)に対するフレッツ・ADSL向けのオプション料金はわずか月額200円である。「利用者が大幅に増えて多重効果が出ることを見込まないととてもできない料金設定」(ニフティ 営業統括部 営業部 高橋 幸生氏)だという。
光バックボーン構築が安価に
半面,NTT地域会社のADSLサービスへの参入が,競合事業者やISPにプラスになったともいえる。フレッツ・ADSLを開始した2000年12月26日に,自社の光ファイバ網をほかの事業者に安価に提供することを決めたのである。「NTT地域会社はADSLサービスへの参入と引き換えに光ファイバを開放した」(東京めたりっく通信 広報室 マネージャ 平田 佳世氏)という見方である。
東京めたりっく通信は,第1号ユーザーとしてNTT東日本と光ファイバの利用契約を結んだ。光ファイバをギガビット・クラスのバックボーン・ネットワークの構築に利用する。そのため,バックボーン構築・運営会社「東京ふぁいばあ通信」を設立,2000年12月に第一種電気通信事業者の認可を受けている。
これまで東京めたりっく通信はNTT地域会社の「ATMメガリンクサービス」を利用してバックボーンを構築していた。「このコストが本当に高かった。今回の光ファイバの開放で,バックボーンにかかるコストを大幅に安くできる。サービス・エリアも柔軟に拡大できるようになる」(東京めたりっく通信の平田氏)という。バックボーンの整備コストが安くなれば,エンドユーザーの接続料金の引き下げやスループットの向上が可能になる。東京めたりっく通信では,3Mビット/秒や6Mビット/秒でのADSLサービスや,一定の通信速度を保証するサービスなどの提供を検討しているという。
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図2●光・IP通信網サービスのメニュー 地域IP網を利用するメニューは3種類。戸建て住宅向けのメニューは2種類あり,10Mビット/秒の帯域を共用する最大ユーザー数が異なる。「集合住宅向けメニュー」は最低10戸程度の契約を見込めるマンションなどが対象。 |
ただし,ADSLサービスでは伝送速度の限界が近く,いずれ速度に不満が出てくる。高品質の映像コンテンツを配信したり,SOHO(スモール・オフィス/ホーム・オフィス)から企業内のLANなどにストレスなくアクセスしたりするには数Mビット/秒でも十分といえないからだ。
FTTHも2001年夏に商用へ
すでに,ADSLよりも確実に高速伝送が可能な光ファイバを使ったFTTHも一部地域で試験サービスが始まっている。2001年春からなかごろにかけて商用サービスも始まる。NTT地域会社は2000年12月にFTTHの試験サービス「光・IP通信網サービス」を開始した。最高伝送速度は10Mビット/秒。フレッツ・ADSLと同様に,収容局から地域IP網を経由してISPに接続する。
光・IP通信網サービスのメニューは3種類ある(図2[拡大表示] )。戸建て住宅向けの「基本メニュー」は,10Mビット/秒の帯域を最大256ユーザーで共有して地域IP網に接続する。同じく戸建て住宅向けの「高スループットメニュー」は10Mビット/秒の帯域を共有するユーザー数を最大32ユーザーに制限することで,基本メニューに比べて高いスループットを提供する。「集合住宅向けメニュー」は,10Mビット/秒の帯域を最大750ユーザーで共有する。集合住宅と収容局とを1本のファイバで結び,入居者で共有する。最低10ユーザー程度の契約が見込める場合に提供するサービスである。
有線ブロードネットワークス子会社のユーズコミュニケーションズも2000年10月から東京都世田谷区の一部地域でFTTHの試験サービスを提供。2001年1月には24社から計70億円の出資を受け,2001年4月に商用サービスを開始することも発表した。
ただ,商用サービスが始まっても,FTTHの普及は先の話である。提供地域が限られ,利用料金もまだこなれていないためだ。
ユーズは月額5000円程度と低料金を予定しているが,当面の提供エリアは東京23区の一部地域にとどまる。NTT地域会社の光・IP通信網サービスは,基本メニューの月額利用料金が1万3000円。これとは別に,ISPの利用料金も必要になる。たとえば,ぷららネットワークスを利用する場合は月額5450円で,合計月額2万円近い料金になる。
ISP料金を併せて5450円の集合住宅向けメニューはある程度の普及が見込めるが,共有するユーザー数からブロードバンド・サービスというよりは現在の専用線接続に代わるサービスと考えた方がよいだろう。