2000年12月3日から8日まで,XML関連会議では世界最大の「XML2000」が米国ワシントンDCで開催された。話題の中心は,XMLをベースにした「Webサービス」。今後のECシステム構築のための部品として提供されるサービスである。会議では,Webサービスの普及を加速する技術の標準化がメイン・テーマとなった。業務プロセスのディレクトリ・サービスなどを実現する「ebXML」や,品質などをベースにWebサービスを検索可能にする「XTM」などの新技術が注目を集めた。
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写真1●XML2000の展示会場 ソフトウエア開発者向けのツールや,文書管理ソフトの展示が中心だった。日本からは,インフォテリアが参加した。 |

Webサービスは「サービスのためのサービス」。物流や決済といった機能を提供するもので,ECサービス構築のための部品となる。取引先向けのWebシステムやマーケットプレイスなど,あらゆるBtoB(企業間)システムが,今後はWebサービスになる。
例えば,XMLの育ての親である米サン・マイクロシステムズのジョン・ボザック氏は基調講演の中で,「Webサービスは,社内システムでも,取引先や顧客のシステムでも提供されるようになり,これらを組み合わせることで,素早く業務システムを構築できるようになる」と予測した。
販売システムなら,オークション・エンジンや,購入ボタン・サービス,販売ボタン・サービス,発注システム,決済システムといったWebサービスを組み合わせて実現されることになるという。
米ジェネラル・モーターズでマーケットプレイスなどの構築を主導した米XMLソリューションズのCEO,ロン・シェルビ氏によれば,「今後は,企業間,企業--マーケットプレイス間だけでなく,マーケットプレイス同士も互いにつながる時代になる」。同一の業界や異なる業界のマーケットプレイスを相互につなぎ,商取引のスピードをさらに高めないと,市場で生き残っていけない。
標準化の動きに注目集まる
こうしたWebサービスの連携を加速させるには,インタフェースの標準化が重要になる。プログラム開発者が多く参加するXML2000では,標準化作業の進捗や,技術の詳細に関する報告に注目が集まった。
Webサービスを支える標準仕様としてベンダー間の合意を得ているのが,Webサービスのリモート・アクセス・プロトコル「SOAP」(簡易オブジェクト・アクセス・プロトコル)と,Webサービスのディレクトリ・サービス規格「UDDI」(ユニバーサル・ディスクリプション・ディスカバリ・アンド・インテグレーション)である。
IBMは基調講演で,WebSphereやDB2,MQSeriesなどのECシステム関連製品を2001年前半までにSOAP/UDDIに対応させることを明らかにした。米サンはこれまで,SOAPとUDDIには距離を置いていると見られていたが,基調講演で両仕様の採用を強く呼びかけた。
業務プロセスの標準化も進む
SOAPとUDDIに次いで重要と見られているのが,ebXML(電子ビジネスXML)と呼ぶ標準規格である。SOAPとUDDIではカバーしていない「ビジネス・プロセス」や「ビジネス・セマンティックス」など,より広範囲な規格を標準化しようとしている。「ebXMLは,eビジネスの基盤になる」(米サンのボザック氏)。ebXMLは当初,2001年5月までに作成される計画だったが,これが3月までに早められる予定である。
ビジネス・プロセスは,企業間取引での業務手順。ビジネス・セマンティックスは,企業間のメッセージで用いる用語の意味を表し,企業ごとに意味が違う用語の統一を狙ったもの。例えば「価格」と言ったとき,1個の価格なのか1箱の価格なのか,通貨は何なのかといった意味が,企業間で食い違わないようにする。
ebXMLでは,このようなビジネス・セマンティックスと,ビジネス・プロセスを登録するディレクトリを整備する。ebXML対応のアプリケーションでは,取引先が指定したビジネス・プロセスとビジネス・セマンティックスをディレクトリからダウンロードすれば,取引先のやり方に合わせた商取引を直ちに開始できるようになる。
もっとも,こうした仕組みが現実的かどうかを疑問視する意見もある。例えばビジネス・プロセスの定義は,UML(ユニファイド・モデリング言語)と呼ぶ言語で記述する予定だが,こうした言語でどれだけ厳密な定義が可能か,異種ソフト間での相互接続まで保てるのかといった意見である。実際の実装を待ってみないと,判断は難しい。
Webサービスの品質まで検索可能に
XML2000では,ebXMLよりもさらに進んだ新しい技術が発表され,話題を集めた。知識情報を表現し,交換するためのXMLデータ仕様「XTM1.0」(XMLトピック・マップス)で,任意団体のトピックマップス・ドット・オルグが発表した。XTMに関するセッションはXML2000期間中に十数種類が開かれ,来場者の大きな関心を集めた。展示会場では,ドイツのエンポリス,ノルウェーのオントピア,フランスのモンデカなどがXTMエンジンなどをデモしていた。
XTM仕様の著者の1人である米イーコムXML XMLエバンジェリストのサム・ハンティング氏によれば,「XTMを使えば,第2世代のBtoBシステムを構築できる」という。XTMは,インターネット上で,好みの取引先やWebサービスを探し出すのに使う。
UDDIやebXMLのディレクトリで登録されるのは,取引先の名前や,業務プロセス,やり取りするデータ仕様などだけ。取引先の信頼性や商品の品質といった,実際の商取引を行うために必要な情報は得にくい。XTMを使うと,商品の品質や信頼性などの定性的なデータを知識ルールとして登録できるようになる。ここから検索すれば,これまで人手で調べるしかなかった品質面なども考慮したうえで,取引先を電子的に選べるようになる。
もっとも「XTMのような仕組みを実現するには,知識を表現するためのボキャブラリ(辞書)をきちんと標準化したうえで,参加企業から十分な知識情報が集まることが条件になる」(XML2000のある参加者)。XTM普及のためのハードルはebXMLよりもさらに高く,実際に普及するかどうかはまだ未知数だ。
普及の可能性は不透明だとしても,こうした技術が注目を集める背景には,BtoB ECの普及がもう目前にまで迫っていることがある。BtoB EC実現に向けて,今後どのような技術が発展していくか,しばらく目を離せない。