電子透かし技術を利用してディジタル・コンテンツの著作権を管理するための標準化が進み,実用化が近づいている。共通の電子透かし方式を決め,著作権管理の効率を向上させようというものである。標準化を進める「コンテンツIDフォーラム(cIDf)」が3月に第1.0版を発表し,9月に「Content Management Forum 2000」の会場でこの仕様に準拠したソフトウエアのデモを実施した。10月には,実証実験を予定している。(中島 募=nakashim@nikkeibp.co.jp)

図1 cIDf1.0で示しているコンテンツ管理モデルの一例
cIDfでは,電子透かしなどを用いたディジタル・コンテンツの管理モデルの大まかな枠組みなどを規定している。
 9月5~6日に東京有明の東京ファッションタウンの開催された「Content Management Forum 2000」で,電子透かし技術を使った著作権管理システムのデモが実施された。このデモは,「コンテンツIDフォーラム(cIDf)」が規定する著作権管理の仕様に準拠するソフトウエアを利用したものである。

 cIDfは,インターネット上で安全にディジタル・コンテンツを流通するための著作権管理システムの標準化を進めている団体である。99年8月に発足し,2000年3月には著作権管理の標準仕様「cIDf仕様書第1.0版」を発表した。

 現在,cIDfにはNTTグループや東京大学など70以上の企業・組織が参加している。2000年10月には,ビットバレーに参加する企業などが,cIDfの仕様に従った著作権管理システムを利用したコンテンツ配信の実証実験を予定している。

電子透かしで著作権を管理

写真1 メタ電子透かしで埋め込まれている情報
メタ電子透かしで電子透かしの方式の情報を埋め込んでいる。写真は,日立製作所が開発した電子透かしを管理するためのソフト。
 画像や音楽などのディジタル・コンテンツをインターネット上で流通させるとき,一番の問題となるのがコンテンツの不正利用である。悪意のあるユーザーがコンテンツをコピーしてネット上に公開したりする不正の可能性がある。

 こういった不正利用の防止策として,コンテンツに電子透かし技術を使って,著作権を管理しようというサービスがすでに実施されている。著作権者名や使用条件などの著作権情報を電子透かしでコンテンツに埋め込んでおけば,コンテンツのチェックがしやすい。しかし,電子透かし方式がベンダーごとに異なっているため,非効率なチェック作業を余儀なくされているのが実情である。というのは,インターネット上に公開されているコンテンツを読み込んで電子透かしをチェックするチェック処理を,各ベンダーが別々に実施しているからである。

 cIDfならば,この非効率を軽減できる。cIDfが認定する監視組織などの1カ所でチェック処理を実施するだけで済むからだ。各ベンダーが共通で運営する組織(コンテンツIDセンター)が,コンテンツIDをはじめとする著作権情報を管理する(図1[拡大表示])。コンテンツをセンターに登録する際に,著作権名や使用条件などの著作権情報をIPR-DBセンターのデータベースに記録し,コンテンツIDセンター管理番号を電子透かしで埋め込む。そのコンテンツを流通させれば,監視組織などだけでコンテンツが不正使用されていないかのチェックが可能になる。

著作権情報はDCDで記述

図2 メタ電子透かしから電子透かしの方式の情報を抜き出す
コンテンツIDセンター管理番号はベンダーごとに異なる電子透かしの方式で埋め込まれている。この電子透かし方式の情報はメタ電子透かしに埋め込まれており,cIDf共通の方式で抜き出すことができる。
 cIDfでは,コンテンツIDセンター管理番号を各ベンダーそれぞれの電子透かし方式で埋め込み,その電子透かしの方式を示す情報などを「メタ電子透かし」で埋め込む(写真1[拡大表示])という2段階の手順を踏む(図2[拡大表示])。センター管理番号は,外部に漏れては困る情報で,それを埋め込む電子透かしにはベンダーそれぞれが開発した強度の高い技術を利用するという考えである。

 データベース内の著作権情報は,流通コンテンツ記述子(DCD:Distributed Content Descriptor)を利用して作成されている。DCDはXML(拡張可能マークアップ言語)をベースとしたデータ形式である。

 不正使用などをチェックする場合は,まず,インターネット上のコンテンツのメタ電子透かしが示すベンダーによる電子透かしでセンター管理番号を検出。次に,IPR-DBセンターのデータベースから著作権情報を取り出し,チェックするという流れになる。

 9月に実施されたデモでは,NTTサイバーソリューション研究所が開発したコンテンツを著作権管理システムに登録するソフトウエアや,日立製作所が開発した電子透かしを管理するソフトなどが実演された。

著作権情報自体を添付する方式も

 DCDで記述された著作権情報自体も,ディジタル・コンテンツそのものに添付する方式も検討されている。ファイルのヘッダー部分に付加する。改ざんをチェックするために,ディジタル証明書も組み込む。そうすれば,著作権情報のチェックのためにいちいちデータベースを参照しなくて済む。それに専用ビューアなどのアプリケーションを用意すれば,使用条件に合わせてコンテンツの利用を制御することも可能である。