定額のインターネット接続サービスが広がっている。NTT地域会社の「フレッツ・ISDN」がサービス・エリアを広げ,全国的に利用できるようになる。数百kビット/秒とより高速接続が可能なADSLサービスも2000年秋から本格的な普及が始まる。一方,無線を使ったサービスは,ADSLのサービス・エリアを補完する役割を持つと見られる。

図1 イー・アクセスが提供するADSL試験サービスの実際の接続速度
利用者126人がそれぞれ下り回線で接続できた速度を集計(1日分)。3分の2程度はサービスの上限である約1.5Mビット/秒で接続できている。1Mビット/秒以上が全体の約9割を占める。半面,3%程度は700kビット/秒以下である。
 定額のインターネット接続サービスが広がり始めた。火付け役となったのはNTT東日本とNTT西日本が提供するIP接続サービス「フレッツ・ISDN」である。プロバイダの接続料を含め,月額7000円前後の固定料金で使い放題になる(本誌2000年7月号,注目のインターネット・サービスを参照)。サービス・エリアも近いうちに全国をカバーする。これまでCATVのサービス・エリアなどに限られていた使い放題の接続サービスを一気に「常識」といえるレベルにまで引き下げた。

普及フェーズに入るADSL

 今後,台風の目となるのは2000年秋にも本格的な商用サービスが始まるADSL(非対称ディジタル加入者回線)である。既設の電話回線を使って,最高1.5Mビット/秒程度で常時接続することができる。東京めたりっく通信が1999年から提供している試験サービスでは,上り(ユーザーからインターネット方向)250kビット/秒,下り640kビット/秒の標準的なメニューで月額利用料金が5500円と,フレッツ・ISDNなどと比べて圧倒的に高速な回線を安価に利用できる。

 まだ「試験」の名前こそ取れていないが,実際には技術面の問題はほぼ解消したという。ADSLはISDNと干渉して性能が低下する可能性が指摘されてきたが,「“日本の電話回線でADSLサービスは難しいのではないか”という懸念は言下に否定できるまでになった。心情的には本サービスとして普及させる段階に入っている」(東京めたりっく通信副社長の平野 剛氏)。たとえば,イー・アクセスの試験サービスでは,6割程度のユーザーがサービスの上限値である約1.5Mビット/秒で接続できているという(図1[拡大表示])。

1日1局ペースでエリア拡大

図2 ワイヤレスインターネットの「ワイヤレスアクセスサービス」
マンションなどに設置した基地局から,半径400メートル程度の「マイクロエリア」を対象に無線接続サービスを提供する。このエリアの外や,エリア内でも基地局を見通せないところや電波干渉の大きなところには提供しない。
 技術面の懸念がなくなったことで,サービス・エリアの拡大が加速してきた。東京めたりっく通信はすでに東京23区内の全収容局についてADSL設備の設置の手続きを終え,設備の設置スペースも確保した。「2000年中に東京23区の全局で利用可能になる」(平野氏)。イー・アクセスも2000年秋から1日1局のペースでサービス・エリアを広げていく。

 大手のプロバイダにもADSLへの対応を始める動きがある。ニフティは2000年7月からイー・アクセスおよびNTT東日本と共同でADSLを使った常時接続の試験サービスを開始した。松下電器産業が運営するプロバイダ「Panasonic Hi-HO」も2000年8月20日にADSLの試験サービスを始めた。

 首都圏だけでなく,大阪市や名古屋市などでも東京めたりっく通信やイー・アクセスがサービスを始める。宇都宮市,長野市,北九州市といった地方都市でもサービスを発表する事業者が出始めた。

 郵政省が2000年7月31日に発表した,2000年6月現在のADSLサービスの加入者数は1235。今のところ,CATVのネットワークを使ったサービスの加入者数32万9000に遠く及ばない。しかし,この状況は,2000年秋を境に一変する可能性が高い。

エリア拡大に限度がある

 そうはいっても,ADSLのサービス・エリアがフレッツ・ISDNのように全国すみずみにまで広がることは期待できない。ADSL設備の設置には1収容局あたり1億円程度の投資が必要だという。このため,地方都市の郊外など,大きな需要が見込めないエリアへの展開は難しい。たとえばイー・アクセスでは「ADSLで人口の半分程度をカバーできればと考えている」(イー・アクセス取締役の小畑 至弘氏)という。

 サービス・エリア内でも必ず利用できるわけではない。ADSLはユーザー宅から収容局までメタリック・ケーブルで結ばれていることが前提となる。ところが東京23区内などでも一部が光ケーブル化されている地域が点在し,こうした地域では全く利用できない。メタリック・ケーブルでつないでいても,距離が長い場合やケーブルの状態が悪い場合には品質が落ちて,思うような速度で接続できないこともある。

無線サービスがADSLを補完

 こういった,郊外などでの展開が難しいADSLの補完的な役割を担う可能性があるのが,無線を使った常時接続サービスである。ユーザー宅から基地局を見通せる必要があるので,視界をさえぎるマンションが少ない郊外の住宅地などにはむしろ都合がよい。

 いち早く無線サービスを始める事業者も登場した。エヌ・ティ・ティ エムイー(NTT-ME)などが合弁で設立したワイヤレスインターネット(http://www.bban.co.jp/)は,2000年9月にも無線を使った「ワイヤレスアクセスサービス」を始める。基地局から半径400メートル内の「マイクロエリア」と呼ぶ狭い地域を対象にするのが特徴で,プロバイダの接続サービス料を含め,月額5000円程度で利用できるという。当初は東京,神奈川,埼玉,千葉の1都3県と兵庫県の一部地域で展開するが,需要を見込めるところには今後積極的に展開していくという。

 基地局はマンションの屋上などに設置する(図2[拡大表示])。データ転送速度は約1Mビット/秒で,これを200~300ユーザーで共有する。「半径400メートルの円内には,およそ2000~2500世帯が含まれる。この中に200ユーザー程度の実需があることを確認してから基地局を設置する」(ワイヤレスインターネット 社長 藤田 孝克氏)。

 エリア内でも建物の陰になる場所や,近くに電波干渉源がある場所では利用できない。基地局をマンションに設置することである程度の見通しを確保し,それで無理ならばサービス提供しない,と割り切ることで安価に提供する。

(斉藤 国博=kuni@nikkeibp.co.jp)