米マイクロソフトは,同社の製品やサービスの今後の開発方針を示した次世代戦略「Microsoft.NET」(マイクロソフト・ドット・ネット)を明らかにした。Windows,Officeなどのあらゆる製品をインターネットのサービスとして利用できるようにし,パソコンや携帯電話,携帯型情報機器から同じようにアクセスできるようにする。

写真1 マイクロソフトの次世代戦略「.NET」に対応させる機器
パソコンだけでなく,携帯電話やPDAなどでも同じように.NETサービスを利用できるようにする。
 米マイクロソフトは6月22日,同社の製品やサービスの今後の開発方針を示した次世代戦略「Microsoft.NET」(マイクロソフト・ドット・ネット)を明らかにした。これまで「NGWS(次世代Windowsサービス)」と呼んでいたものである。

 今後,インターネット上のあらゆるサービスは,XML(拡張可能マークアップ言語)という共通言語を介してアクセスできるようになり,ユーザーは,これらのサービスを自由に組み合わせて利用できるようになる。マイクロソフトは,自社のあらゆる製品やサービスを,こうした時代にマッチするように変えていく。例えばOfficeをインターネット上のサービスとして利用できるようにする。Windowsは,こうしたサービスを容易に使えるクライアントOSとして,または,インターネット上のサービスを組み合わせて新サービスを開発するサーバーOSとして機能強化していく。こうした製品戦略の集合体が「.NET」である。

 インターネット上のサービスは,いつでも,どこからでも同じように利用できる環境を目指す。このため,パソコンだけでなく,ユーザーがいつも持ち歩く携帯電話やPDA(携帯情報機器)にも.NET環境を用意していく(写真1[拡大表示])。

 もっとも,インターネット経由であらゆるサービスを利用できるようになる時代がすぐに来るわけではない。「革新のペースは,今後5年間で加速する」(ビル・ゲイツ会長兼最高ソフトウエア・アーキテクト)とはいうものの,明日にも,現在のWindows OSやOfficeが不要になるわけではない。マイクロソフトは,現行製品のバージョン・アップを続けながら,今後2~3年をかけて,.NET版の製品とサービスを投入していく。

.NET対応のWindowsを来年出荷

表1 .NETベースの次世代製品またはサービスの例
 もっとも今回の発表は,次期製品の機能や出荷時期といった具体的な内容には乏しかった。あらゆる製品をサービスとして提供するというが,それに合わせた価格体系を示したわけでもない。明らかにしたのは,製品開発の方向性だけである。.NETの具体像が製品として示されるのは2001~2002年になりそうだ(図1[拡大表示],表1[拡大表示])。

 .NETの実像を最初に明らかにする製品は,2001年に出荷するクライアントOSの次期版「Windows.NET」になりそうだ。現行のWindows2000とWindows98という2つの製品ラインアップを1つにまとめる位置付けの製品である。

 Windows.NETでは,「ユニバーサル・キャンバス」と呼ぶユーザー・インタフェースを用意する見込みである。Webページの閲覧,メールの読み書き,文書の作成などを統一的に行える環境である。クライアントのOfficeなどのアプリケーションと,インターネット上のサービスを,統一したユーザー・インタフェースで利用できるようにする。例えば受け取ったメールの差出人の住所をクリックすると,自動的にWebサイトにアクセスして,周辺の地図が表示される。ワープロで作成した履歴書を,そのまま職業紹介サービスのWebサイトに登録すると,ユーザーの名前,学歴,能力といったデータはXML形式で渡され,自動的に登録されるといった具合である。

 こうした環境は,パソコンだけでなく,他の機器でも利用できるようにする。ユーザーの個人情報や,個人データはすべてインターネット上のサービスで管理し,どの機器からでも同じデータをできるようにする。アプリケーション・ソフトも必要に応じて,クライアントに自動インストールする。このように,様々なクライアント機器,インターネット上のサービスが対等に連携して動作できるようにするのが.NETの狙いである。

ポータル,部品サービスを拡充

図1 「.NET」をベースにした製品群
Officeなど,パッケージとして提供していたものを,今後はインターネット上のサービスとして提供していく。こうしたサービスは,パソコンだけでなく,PDAや携帯電話などさまざまな機器から利用できるようにする。パソコンで.NETサービスを利用するためのOSとして,Windowsの次期版「Windows.NET」を開発する。こうしたサービスやOSは,今後2~3年間に順次出荷していく。
 サービスの拡充策としては,まずは既存のポータル・サイトを機能強化する。コンシューマ向けの「MSN.COM」向けには,ローカルのデータとMSNのデータを同じようにアクセスできる専用のクライアント・ソフトを今秋に出荷する。中小企業向けのポータル・サイト「bCentral」では,メッセージングやカレンダなどのサービスを追加し,ユーザー企業の顧客データベースを管理するサービスを用意する。

 ポータル・サービスのほかに,.NETサービスを構築するための,部品として利用できるサービスを提供していく(表2[拡大表示])。1番目は,ユーザーの個人情報を安全に管理するサービス。名前,住所,クレジット番号など,様々な個人情報をサーバーで管理し,ユーザーの許可の元,Webサイトに送信するサービスである。既存のサービス「マイクロソフト・パスポート」をベースにする。2番目は,メッセージングと通知のサービス。電子メール,ファックス,ボイス・メールなど,さまざまなメッセージを一元的に管理し,用件を通知するサービスである。3番目は,パーソナライゼーション・サービス。緊急性などに合わせて,メッセージや通知の扱い方をカスタマイズするサービスである。このほか,XMLストアと呼ぶXMLデータベース・サービスや,カレンダ・サービス,ディレクトリ・サービスなどを提供する。

 サービスとして利用できるOffice.NETの出荷は2002年以降になる。

非プログラマ向けの開発ツールを用意

表2 .NETサービスを構築するための主なサービス部品
2001年中に3~4個のサービスを提供する。残りは2002年以降。
 XMLベースのサービスを開発するためのツールも拡充していく。

 年内に出荷する企業間EC(電子商取引)サーバーの「BizTalk Server2000」については,開発環境の詳細を明らかにした。プログラムの知識がない担当者にも,XMLベースのサービスを構築できるツール「BizTalkオーケストレーション」を用意する。ビジネス・プロセスを,GUI画面で設計できるツールである。フロー・チャートやオフィス・レイアウトなどを作成するためのグラフィックス・ツール「Visio」がベースになっている。

 BizTalkオーケストレーションでは,Visual Basicなどで開発したプログラムや,他のWebサーバーが提供しているサービスなどをあらかじめ部品として登録しておき,部品を組み合わせることでビジネス・プロセスを作成する。部品の仕組みは知らなくても,比較的容易にビジネス・プロセスを設計できる。GUIツールは,アイコンとして登録された部品をドラック&ドロップして,フロー・チャートを設計する感覚で操作できる。

 プログラマ向けには,Visual Studioの次期バージョン7を2001年に出荷し,開発環境をサービスとして利用できるVisual Studio.NETを2002年以降に出荷する。

(安東 一真=andoh@nikkeibp.co.jp)