米マイクロソフトは,同社の製品やサービスの今後の開発方針を示した次世代戦略「Microsoft.NET」(マイクロソフト・ドット・ネット)を明らかにした。Windows,Officeなどのあらゆる製品をインターネットのサービスとして利用できるようにし,パソコンや携帯電話,携帯型情報機器から同じようにアクセスできるようにする。
写真1 マイクロソフトの次世代戦略「.NET」に対応させる機器 パソコンだけでなく,携帯電話やPDAなどでも同じように.NETサービスを利用できるようにする。 |
今後,インターネット上のあらゆるサービスは,XML(拡張可能マークアップ言語)という共通言語を介してアクセスできるようになり,ユーザーは,これらのサービスを自由に組み合わせて利用できるようになる。マイクロソフトは,自社のあらゆる製品やサービスを,こうした時代にマッチするように変えていく。例えばOfficeをインターネット上のサービスとして利用できるようにする。Windowsは,こうしたサービスを容易に使えるクライアントOSとして,または,インターネット上のサービスを組み合わせて新サービスを開発するサーバーOSとして機能強化していく。こうした製品戦略の集合体が「.NET」である。
インターネット上のサービスは,いつでも,どこからでも同じように利用できる環境を目指す。このため,パソコンだけでなく,ユーザーがいつも持ち歩く携帯電話やPDA(携帯情報機器)にも.NET環境を用意していく(写真1[拡大表示])。
もっとも,インターネット経由であらゆるサービスを利用できるようになる時代がすぐに来るわけではない。「革新のペースは,今後5年間で加速する」(ビル・ゲイツ会長兼最高ソフトウエア・アーキテクト)とはいうものの,明日にも,現在のWindows OSやOfficeが不要になるわけではない。マイクロソフトは,現行製品のバージョン・アップを続けながら,今後2~3年をかけて,.NET版の製品とサービスを投入していく。
.NET対応のWindowsを来年出荷
表1 .NETベースの次世代製品またはサービスの例 |
.NETの実像を最初に明らかにする製品は,2001年に出荷するクライアントOSの次期版「Windows.NET」になりそうだ。現行のWindows2000とWindows98という2つの製品ラインアップを1つにまとめる位置付けの製品である。
Windows.NETでは,「ユニバーサル・キャンバス」と呼ぶユーザー・インタフェースを用意する見込みである。Webページの閲覧,メールの読み書き,文書の作成などを統一的に行える環境である。クライアントのOfficeなどのアプリケーションと,インターネット上のサービスを,統一したユーザー・インタフェースで利用できるようにする。例えば受け取ったメールの差出人の住所をクリックすると,自動的にWebサイトにアクセスして,周辺の地図が表示される。ワープロで作成した履歴書を,そのまま職業紹介サービスのWebサイトに登録すると,ユーザーの名前,学歴,能力といったデータはXML形式で渡され,自動的に登録されるといった具合である。
こうした環境は,パソコンだけでなく,他の機器でも利用できるようにする。ユーザーの個人情報や,個人データはすべてインターネット上のサービスで管理し,どの機器からでも同じデータをできるようにする。アプリケーション・ソフトも必要に応じて,クライアントに自動インストールする。このように,様々なクライアント機器,インターネット上のサービスが対等に連携して動作できるようにするのが.NETの狙いである。
ポータル,部品サービスを拡充
ポータル・サイトを機能強化する。コンシューマ向けの「MSN.COM」向けには,ローカルのデータとMSNのデータを同じようにアクセスできる専用のクライアント・ソフトを今秋に出荷する。中小企業向けのポータル・サイト「bCentral」では,メッセージングやカレンダなどのサービスを追加し,ユーザー企業の顧客データベースを管理するサービスを用意する。ポータル・サービスのほかに,.NETサービスを構築するための,部品として利用できるサービスを提供していく(表2[拡大表示])。1番目は,ユーザーの個人情報を安全に管理するサービス。名前,住所,クレジット番号など,様々な個人情報をサーバーで管理し,ユーザーの許可の元,Webサイトに送信するサービスである。既存のサービス「マイクロソフト・パスポート」をベースにする。2番目は,メッセージングと通知のサービス。電子メール,ファックス,ボイス・メールなど,さまざまなメッセージを一元的に管理し,用件を通知するサービスである。3番目は,パーソナライゼーション・サービス。緊急性などに合わせて,メッセージや通知の扱い方をカスタマイズするサービスである。このほか,XMLストアと呼ぶXMLデータベース・サービスや,カレンダ・サービス,ディレクトリ・サービスなどを提供する。
サービスとして利用できるOffice.NETの出荷は2002年以降になる。
非プログラマ向けの開発ツールを用意
表2 .NETサービスを構築するための主なサービス部品 2001年中に3~4個のサービスを提供する。残りは2002年以降。 |
年内に出荷する企業間EC(電子商取引)サーバーの「BizTalk Server2000」については,開発環境の詳細を明らかにした。プログラムの知識がない担当者にも,XMLベースのサービスを構築できるツール「BizTalkオーケストレーション」を用意する。ビジネス・プロセスを,GUI画面で設計できるツールである。フロー・チャートやオフィス・レイアウトなどを作成するためのグラフィックス・ツール「Visio」がベースになっている。
BizTalkオーケストレーションでは,Visual Basicなどで開発したプログラムや,他のWebサーバーが提供しているサービスなどをあらかじめ部品として登録しておき,部品を組み合わせることでビジネス・プロセスを作成する。部品の仕組みは知らなくても,比較的容易にビジネス・プロセスを設計できる。GUIツールは,アイコンとして登録された部品をドラック&ドロップして,フロー・チャートを設計する感覚で操作できる。
プログラマ向けには,Visual Studioの次期バージョン7を2001年に出荷し,開発環境をサービスとして利用できるVisual Studio.NETを2002年以降に出荷する。