成長が期待されるEC(電子商取引)市場で,コンビニエンス・ストア・チェーンの参入が相次いでいる。店頭での決済と商品の受け渡しに加え,マルチメディア端末を用いたディジタル・データの販売など,対消費者のECのプラットフォームを提供する考えだ。コンビニ店舗の,広範かつ密度の高い立地を利用した日本独自のECシステムが見え始めている。
「国内の2003年の市場規模は3.2兆円」(通産省)というEC(電子商取引)市場へのコンビニエンス・ストア・チェーン各社の参入が相次いでいる(表1[拡大表示])。各社がインターネットに開設するECサイトで注文した商品を,コンビニ店舗で受け取るサービスが,2000年春からぞくぞくと始まる。さらにインターネットに接続したマルチメディア端末を店舗に配置し,コンビニの店頭でもECサイトへのアクセスやディジタル・コンテンツの購入ができるようになる。
コンビニ+ECは日本独自
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表1 コンビニエンス・ストア各社の主なECサービス |
「日本はコンビニの店舗数が多く,立地も住宅からごく近い。このため日本のECは米国とやや異なった形で発達する」(IDC Japan調査担当副社長の梅山 貴彦氏)。最寄りの店舗で品物を受け取れるという消費者にとってのメリットと,利便性・集客力の向上という既存店舗にとってのメリットとがあいまって,企業-消費者間(B to C)のECの重要なインフラになりそうだ。
セブン-イレブン8000店舗に展開
全国に約8000の店舗を持つ最大手のセブン-イレブン・ジャパンは,業種を越えた連合で参入する。2000年2月1日,EC事業を展開する合弁会社「セブンドリーム・ドットコム(7dream.com)」を設立した。資本金は50億円で,セブン-イレブンが51%を出資したほか,NEC,野村総合研究所,ソニー,ソニーマーケティング,三井物産,日本交通公社,キノトロープの合計8社が出資した。
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図1 セブンドリーム・ドットコムのサービス データセンターを設立し,約8000のセブン-イレブン店舗と接続する。店舗にはマルチメディア端末の設置を進め,店内のPOSレジスタやチケット・プリンタなどと接続する。チケットの予約/販売や写真のディジタル・プリント・サービスなどを行う。インターネットにはECサイトを開設する。オンラインで注文した商品の引き渡しや代金の決済は店舗で行う。 |
これらディジタル・コンテンツなどを処理するために,2000年10月からおよそ半年間をかけて,全国の約8000店舗へマルチメディア端末を設置する。マルチメディア端末には,ミニディスク(MD)への書き込み機能やディジタル・プリント機能,スキャナ,CCDカメラ,および小口の現金処理機能などを備える。
サービス開始時のコンテンツは旅行,音楽,写真,雑貨や生花などの物販/ギフト,チケット,書籍,自動車,エンタテインメント情報など。単にメニューから商品を選ぶ形態だけではなく,たとえば音楽アーティストの情報を表示しながら,そのアーティストのコンサート・チケット,音楽データやブロマイドをその場で購入できる。マルチメディア端末の機能を生かしたコンテンツを構築していく。
このハードおよびソフトへの投資額は400億円で,「国内最大規模」(7dream)。取扱高予測も2003年度には3000億円と,通産省予測のEC市場の1割程度を占める大規模なものだ。
ローソンも同種のサービスで追随
店舗数で2位のローソンも7dreamと似たサービスを展開する。ローソンがすでに開設しているCDやDVDのオンライン販売サイト「@LAWSON(アットマーク・ローソン)」はデジタルガレージが東洋情報システムなどと共同開発したエンタテインメント・サイト「WebNation」をローソンのブランドで提供しているだけだ。商品の受け渡しも宅配のみである。これを拡充し,2000年5月に開始予定の店頭での代金決済・商品受け渡しのサービス「econ」でWebNationの商品を購入できるようにする(図2[拡大表示])。併せて,@LAWSONに独自のコンテンツを追加し,CDやDVD以外の製品も買えるようにする。店舗に設置済みのマルチメディア端末「Loppi(ロッピー)」をインターネットに接続して,オートバイテル・ジャパンなど,パートナ企業のECサイトに店頭からアクセスできるようにする計画もある。
準大手各社は共同戦線
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図2 ローソンの@LAWSONのサービス デジタルガレージが運営するエンタテインメント商品のECサイトWebNationをベースに,音楽ソフトの販売を行う自社ブランドのECサイトを構築した。現在は宅配サービスのみだが,店頭での決済と商品の受け取りもできるようにする。 |
eビジネス協議会参加企業のうち,サークルケイとサンクスアンドアソシエイツはネット・スーパー会社e-コンビニエンスにも出資している。しかし,e-コンビニエンスは生鮮食料品が中心で,サービス地域も新たに構築する物流センター周辺に限る。フランチャイズ・チェーンで全国の主要都市にまで広げたい考えだが,既存のコンビニ店舗を利用するサービスに比べればカバー範囲はずっと狭く,まったく別物と考えたほうがよい。
一般企業にも店舗網活用の道
これらコンビニエンス・ストア・チェーン本体が中心となって展開するEC事業とは別に,一般企業のECサイトでもコンビニエンス・ストアが代金決済の重要なインフラとなる可能性がある。たとえば,NTTコミュニケーションウェア(NTTコムウェア)は,コンビニ店舗を利用した,オンライン通販などの代金決済に適したシステム「ダイナミック・ビリング・システム(DBS,仮称)」を開発した。
現在のコンビニが提供している公共料金などの収納代行サービスは,通販など不定期に発生する決済に使うのにはあまり適していない。請求書の発行・送付コストがかかるうえ,チェーン系列ごとに収納代行の契約を交わし,しかも取扱量に関係なく毎月一定の利用料金がかかる。といってクレジット・カード決済では決済額に応じた手数料がかかる。カード番号をインターネット経由で送ることにも根強い抵抗がある。
DBSは,コンビニで決済できる点を生かしたまま,請求書を発行するプロセスを省いた。請求書の代わりに,顧客に対してID番号のバーコードを印刷したカードをあらかじめ配っておく。消費者がサービスや商品を注文する際にこのID番号を告げ,DBS対応のコンビニ店舗でカードを提示して代金を支払う。入金情報は店舗のPOSレジスタからDBSのセンターを通して,ほぼリアルタイムでサービス提供元に伝わる。「高速な回線での常時接続があたりまえになれば,『コンビニで支払いを済ませた音楽データが,家に帰り着くころにはプッシュ技術で届いている』といったことも可能になる」(NTTコムウェア,顧客料金系システム事業部 システム営業担当 システム企画部長の中村 秀典氏)。
手数料は決済額に関係なく「1件100円台前半の完全従量制。請求書発行に伴なうコストを含めれば,従来のシステムのどんな大口の契約よりも安い」(中村氏)という。2000年7月にデータセンターを開設する予定で,ローソンやエーエム・ピーエム・ジャパン,デイリーヤマザキなどがDBSの採用を検討している。