インターネットを使った音楽配信のビジネスが国内でも本格化してきた。ソニー・ミュージックなどの参入で,大手レコード会社のもつ音楽コンテンツが充実する。NTTドコモなどの参入で,携帯電話やPHSを利用した音楽ダウンロードも可能になる。また,ソニーがコンピュータ関連企業と著作権保護に関する技術提携を結ぶなど,技術的なインフラも整いつつある。

 インターネットを使った音楽配信分野の動きが激しい(表1[拡大表示])。大手企業が相次いで参入することで,いよいよ本格的なビジネスが幕を開けようとしている。

表1 最近の国内での音楽配信ビジネスの主な動向
 インターネットを利用した音楽配信は,これまでCDに収録して販売していた音楽を,圧縮や暗号化などの処理を加えたのちインターネットを介して顧客に転送するもの。顧客は,ダウンロードした音楽(データ)を,パソコン上や携帯型プレーヤで再生できる。

 これまでは,インディーズ(大手レコード会社に属していない新興レーベル)を中心とした音楽コンテンツの販売が中心だった。ミュージック・シー・オー・ジェーピー(本社,東京)は99年9月から,ノエル(本社,東京)はトランス・コスモスと共同で99年10月からインディーズ系の音楽を販売している。ノエルがコンテンツを提供しているNTTソフトウェアの「BaySide」は,99年11月からサービスを有料化,本格的な運営に入った。

 この分野の動きに拍車をかけるのが,大手レコード会社の参入である。ソニー・ミュージックエンタテインメントは99年12月,新譜CDシングルのタイトル曲の配信サービスを開始した。ダウンロードした音楽データはパソコンと,ソニーが販売する携帯型プレーヤ「VAIOミュージッククリップ」「メモリスティックウォークマン」に転送して聴くことができる。

 大手レコード会社のBMGファンハウスも,2000年1月に実験的な配信サービスを予定している。他社も今後,音楽配信のビジネスに相次いで参入しそうな気配だ。メジャーなアーティストの曲がインターネットを介して購入できる時代がいよいよやってくる。

携帯電話/PHSが受信用端末に

 パソコンをもたない人でも音楽をダウンロードできるサービスも始まる。携帯電話やPHSを使う方法である。

 NTTドコモは,2000年4月にPHSを利用した音楽配信サービス「MMD(Mobile Media Distribution)サービス」の実証実験を予定している。「メモリースティック」や「SDメモリーカード」を装着可能なPHSを開発,それを使って音楽データを受信する。

 「メモリースティック」はソニーが,「SDメモリーカード」は松下電器産業や東芝などが開発した著作権保護機能を備える小型の記録メディア。ダウンロードした音楽データは,それぞれのメディアに対応した携帯型プレーヤで聴く。

図1 SDMIの決定に先行して各社と技術提携を進めるソニー
ソニーは図中の企業のほか,米Preview Systems,米Reciprocalなど合計8社と技術提携することを明らかにしている。また同社が99年12月に発売する携帯型プレーヤは,99年12月20日からはじまるソニー・ミュージックエンタテインメントの配信サービスの音楽データを再生できることが決定済みである。
 NTTドコモ以外にも,携帯電話/PHSを利用する動きがある。三洋電機,日立製作所,富士通が開発した音楽配信システム「ケータイdeミュージック」も,PHSと携帯電話を対象にしたサービスである。日立製作所と独Infineon Technologiesが開発した著作権保護技術付きのメディア「セキュア・マルチメディアカード」を装着した専用の携帯電話/PHSを開発,音楽データをダウンロード可能にする計画だ。電話機で音楽を再生することもできる。

著作権保護のインフラ整備が進む

 このように,最近になって音楽配信ビジネスが急速に立ち上がってきた背景には,これまで問題となっていた音楽の違法コピーを防止するための著作権保護技術が実用段階に入ってきたことがある。

 著作権保護技術やその技術を含んだ音楽配信システムはすでに多数登場している。米リキッドオーディオの「Liquid Audio」や米インタートラストの「InterTrust」,米マイクロソフトの「Windows Media Technologies」,米IBMの「EMMS(Electronic Music Management System)」,ソニーの「MagicGate」「OpenMG」,NTTと神戸製鋼所の「InfoBind」などである。

 こうした著作権保護技術(とそれを含む配信システム)に対して積極的に技術提携を進めているのがソニーだ。パソコン上で音楽データの著作権を管理する同社のOpenGateと他社の音楽配信システムの著作権保護技術を相互接続するため,積極的な提携を進めている(図1[拡大表示])。それぞれの配信システムを経由して受信した音楽データを,OpenGateのフォーマットに変換し,同社の携帯型プレーヤで聞けるようにする。データ・フォーマット変換には,携帯型プレーヤに付属するソフト「OpenMG Jukebox」を使う。ソニーは今後,各社のシステムに対する変換用モジュールを同ソフトのプラグインとしてユーザーに提供していく予定である。

(中島 募=nakashim@nikkeibp.co.jp)