営業店を持たず、インターネットや電話といったオンライン・チャネルのみで事業展開する銀行の形態。営業コストを抑え、預金金利を高く設定して顧客を拡大する。預金、決済、個人ローンといったほとんどのサービスを提供する。米国では90年代後半に現れ、日本でも今年中に初のネット専業銀行が開業する見込み。

 読者の皆さんは、給与の振り込みや公共料金の支払い、クレジットカードで購入した商品の代金引き落としなど、なんらかの形で銀行と取引をしていると思います。しかし、ちょっと思い出してみてください。最近、銀行の窓口を訪れたことがありますか。「そういえば、窓口はほとんど利用していないな」という方が多いのではないでしょうか。

 実際、大方の用事はATM(現金自動預け払い機)で済んでしまいます。最近はわざわざ窓口に行かなくても、電話やインターネットで残高照会や現金の振り替え・振り込みができる銀行も増えています。ローンの申し込みをインターネットで受け付けるサービスまで出てきました。

 こうなると、「銀行窓口がなくても不便は感じない」という顧客が現れるのは不思議ではありません。こうした客層にターゲットを絞り、オンライン・チャネルだけで銀行業務を展開しようというのが「ネット銀行」です。

◆効果
営業コストを抑え、高金利を提示

 インターネット人口が急速に増えつつある今、ネット銀行の潜在顧客も拡大しています。しかも、銀行と顧客の双方にメリットがあるのです。

 銀行側のメリットは、通常の営業店を持つ必要がなく、物件費や人件費をはじめとする営業コストを大幅に削減できる点です。リテール(個人取引)における取引1件当たりのコストを見ると、電話は営業店窓口の3分の1、インターネットは10分の1になるという調査結果もあります。

 ネット銀行はこの浮いたコストで、通常よりも高い預金金利を設定します。これが顧客にとってのメリットです。米国の主なネット銀行の平均的な預金金利は、全米の上位30行の平均より1~3ポイント程度高くなっています。

 日本の場合は携帯電話の「iモード」などを利用したサービスが期待できますから、パソコンを持たない顧客にも広く受け入れるかもしれません。

◆事例
異業種からの参入も

 米国では90年代後半に、NetBankやTeleBankなどがネット銀行としてスタートしました。その後、大手銀行のなかからもネット銀行を子会社として設立する動きが出てきました。ただ、最近はシティバンクなど既存の大手銀行がインターネット経由のサービスを強化しており、競争は激しくなっています。

 日本でもネット銀行の設立構想が相次いでいます。まず、さくら銀行が今年中に立ち上げる計画です。現金の出し入れはさくら銀行のATMを活用。預金の受け付けや個人ローンのほか、EC(電子商取引)における即時決済サービスを行う予定です。

 日本興業銀行と第一勧業銀行、富士銀行の統合3行もネット銀行の設立を計画しています。異業種からはソニーがネット専業の形態で銀行業への参入を表明しており、2001年に事業を開始する予定です。

花澤裕二hanazawa@nikkeibp.co.jp