英国の政府機関が、情報システムの運用管理業務に関する先進事例を集めて体系化したもの。運用管理の質の向上や効率化に役立つ。

 情報システムのライフサイクルには、システムを作る「開発」の段階と、作ったシステムを維持する「運用管理」の段階があります。開発を「上流工程」と呼ぶのに対して、地味な仕事である運用管理は「下流工程」などといわれ、必ずしも重要視されてきませんでした。

 しかし、最近相次ぐ個人情報漏えいやウェブサイト改ざんなどの事故を防ぐには、運用管理を強化するしかありません。様々なハードウエアやソフトウエアを組み合わせてシステムを構成することが多くなった今、運用管理の複雑さも増しています。

 この運用管理を体系的に行うためのガイドラインが「ITIL(ITインフラストラクチャー・ライブラリー)」です。英国の政府機関が先進企業の取り組みを調べ、「お手本」としてまとめたもので、欧米で広く使われています。ITILは公開されており、日本語の書籍が出ているほか、運用管理ツールのメーカーがITILに準拠した製品を提供しています。

◆効果
属人的な業務を標準化

 ITILは運用管理業務を7つに分類しています。すなわち、日常の運用に当たる「サービス支援」、中長期的な運用改善に当たる「サービスデリバリー」、さらに「セキュリティー管理」「ビジネス展望」「情報通信基盤管理」「アプリケーション管理」「サービス管理導入計画」です。それぞれについてあるべき作業内容や注意点をまとめています。

 サービス支援は、さらに「問題管理」「変更管理」など6つの業務に分かれます。変更管理であれば、ソフトを追加したりOS(基本ソフト)をバージョンアップするといった変更の要求を文書にし、会議体で優先順位や変更の是非を判断してから変更を実行する、といったことを定めています。

 このように、ITILの一つひとつの項目を見ると、当たり前の内容が少なくありません。それでも、幅広い運用管理業務を体系化したところに意味があります。ITILをうまく使えば、属人的になりがちな業務をより確実に効率よく行えます。

◆事例
利用者団体に200社

 米P&Gの日本法人では、ITILを参考にして受発注など社内システムの運用管理を見直しました。ITILのなかから、効果を出しやすいと考えた問題管理や変更管理などの4分野を採用。システム障害の発生頻度を減らしながら、運用にかかわる人員をほぼ半減させるなど、顕著な効果が出ました。

 日本におけるITIL利用者団体である「ITサービスマネジメントフォーラム ジャパン」は2003年9月に設立され、既に大手企業の情報システム子会社など200社以上が参加しています。

(清嶋 直樹)