目標管理制度の一種。価値観を共有する仕組みがあることが特徴。上司との対話を通じて互いの思いを明確にして、価値観を共有したうえで、目標と実現の道筋を決める。

 成果主義の報酬制度を採用している企業では、「MBO(目標による管理)」と呼ばれる目標管理制度を導入しているケースが多くなっています。MBOとは、社員が自ら設定した目標の達成を目指す経営管理手法です。

 しかし、現実にはMBOがうまく機能していないという企業が少なくありません。達成が容易なように目標を低めに設定したために業績が伸びなかったり、あるいは社員の間にやらされ感や疲弊感がまん延して会社全体が閉そく感につつまれるといった現象に悩まされているのです。

 こうしたMBOの課題を分析し、問題点の改善を目指した経営管理手法が「MBB(信念による経営)」です。ナレッジマネジメントの分野で著名な野中郁次郎氏を中心としたグループが新たに提唱した概念です。

◆効果
自己ビジョンを描く

 MBBは、社員や組織の目標を設定して、その達成を目指すという点ではMBOと同じです。違いは、目標を設定する際に、社員が上司と対話して、価値観を共有するとともに、自己のビジョンを明確にするところです。目標設定の際に、企業の戦略だけに基づくのではなく、社員個々の考えや思いを込めた目標を設定するのです。

 MBBの提唱者の1人である、フライシュマン ヒラード ジャパンの徳岡晃一郎シニアバイスプレジデントは、「『しみじみ感』のある目標を設定することが重要だ」と指摘します。

 例えば、「売上高5億円の達成」とするのではなく、「昨年度より30%アップの売上高5億円を達成し、業界ナンバーワンの商品力のイメージを確立する。それにより、日本の業界のデザイン力の水準を引き上げることにつなげたい」とするのです。

 単に目指す数字を掲げるだけでなく、個人あるいは組織が置かれた状況を前提に、あるべき姿を描き出し、それをどうやって実現するか、までを目標として掲げるのです。これによって、社員一人ひとりの「自己ビジョン」が明確になります。

◆事例
「なぜなぜ5回」が好例

 MBBは新しい概念なので、現段階で本格導入している企業はありません。ただし、対話を通じて価値観を共有し、意味のある仕事をしようというMBBの試みは、断片的には既に様々な企業に見られます。

 例えば、トヨタ自動車が実践していることで有名な「なぜなぜ5回」(質問を繰り返し、問題の本質に迫っていく手法)も、対話によって問題の本質を洗い出し、行動の指針を決めるという点でMBBと同等な取り組みです。

(吉川 和宏)