高業績を上げている社員の行動に共通する要素のこと。業務ごとに、社員の「あるべき姿」を明確にするための手法。「行動特性」と訳される。

 新入社員のころや、新しい職務に異動した際に、優秀な社員やベテラン社員の技を盗んでやろうという思いを抱いた人も多いことでしょう。

 では、「技を盗む」とはどのようなことでしょうか。これは、仕事で成功を収めるためには、どのような行動をとればよいのかを把握することです。これと同様なことを、組織的に取り組もうというものが「コンピテンシー」です。

 具体的には、高業績を上げ続けている社員たちの行動を観察し、共通する要因を分析。業務内容や職務に応じて、企業が社員に期待する「あるべき人材の姿」を明確にしたものがコンピテンシーです。

 コンピテンシーはもともと、1970年代に米国の心理学者であるD・C・マクレランド・ハーバード大学教授(当時)が提唱したもので、概念としては目新しいものではありません。それが、最近になって特に日本で注目されるようになりました。

◆効果
人事評価や行動改革に有効

 日本企業の多くは、厳しい経済環境に対応するために成果主義の導入に走りました。この結果、財務目標を中心とした短期的な成果ばかりが重視され、新しい事業を作り出したり、既存顧客の満足度を高めるといった成果の見えにくい行動を敬遠するようになってしまいました。これでは、中長期的に考えると企業が衰退することになってしまいます。

 こうした反省から、結果だけでなく日常の行動も評価しようという気運が高まり、人事評価にコンピテンシーを導入する動きが出てきたのです。コンピテンシーを人事の評価項目に設定すれば、誰にどんな能力が不足しているかが把握できるため、人材開発に役立つという利点もあります。

 このほか、業務改革において、現場の行動を変革するためにコンピテンシーを利用する企業もあります。社員に対して、改革後の「あるべき姿」を細かな行動単位で示し、そうした行動をとっているかを日常的に管理する取り組みです。

◆事例
PDAで行動特性を指示

 アサヒビールは2003年6月、量販店など店頭の動きを迅速に把握するために、営業支援専門子会社のスマイルサポート(本社東京)に新システムを導入しました。営業支援の専任担当者が、成績優秀な担当者と同じ行動をとれる仕組みを作ったことが大きな特徴です。

 新システムは、スマイルサポートのパート社員1300人に配布するPDA(携帯情報端末)と本部のサーバーで構成。パート社員である営業支援担当者が、PDAの指示通りに情報を入力すると、結果的に優秀な担当者と同じような行動ができるようにしています。

吉川 和宏 kyoshika@nikkeibp.co.jp