顧客が一生のなかで、自社の商品やサービスをどれだけ購入してくれるかという視点で考えた価値のこと。一般に顧客との付き合いが長くなれば価値は上がる。

企業にとって最も重要な顧客は誰でしょう。短期的に見れば、とにかく高額な商品を購入してくれる人が一番重要な顧客かもしれません。購入した商品をほかの人に薦めてくれる顧客も大切です。

 こうした優良顧客の判断基準に、「時間」の概念を取り入れた指標が「顧客生涯価値(ライフ・タイム・バリュー)」です。顧客の生涯のなかで、どれだけの金額を自社商品で消費してくれたかに注目したものと言えます。

 一般に、企業や店との付き合いが長い顧客ほど、消費総額が多くなっていきます。1度の購入金額が少なくても、長い間顧客でいてもらえれば、最終的な消費総額はかなり大きくなるということです。

 一例を挙げましょう。衝動買いの多いAさんは、街の家電量販店にふらっと立ち寄っては目新しいモノを物色し、その場の勢いで数万円の商品をポンと購入していきます。店員には、とても気前のいい顧客に映ります。

 しかし移り気なAさんは、次回もその店で商品を買ってくれるとは限りません。店にしてみれば、1度限りの商売だったのかもしれないのです。

 一方、何事にも慎重なBさんは、1回の買い物に何日も悩むタイプ。購入までに時間がかかります。しかし、自分を納得させてくれた店員に出会うと、その店を気に入り、何度も足を運んでくれるようになりました。

 このような顧客は、付き合っていく時間が長くなればなるほど、購入金額の合計が多くなっていきます。長い目で見れば、すぐに高額な商品を購入してくれたAさんよりも、Bさんのほうが優良顧客だと言えるかもしれません。

◆効果
新規顧客の開拓より有利

 顧客生涯価値が注目されるのは、全く新規の顧客を開拓するよりも、1度自社の商品やサービスを利用してくれた顧客を維持していったほうがコストが安い場合が多いからです。あれこれ販促をして、その都度新規顧客を獲得していくには相当なコストがかかります。

 その費用を既存顧客の維持に使い、適切なタイミングで次の商品を薦めれば購入に結び付く可能性は高まります。

◆事例
長期会員ほど金額多い

 ジェーシービー(本社東京)のようなクレジットカード会社の顧客は、カード会員期間が長くなるほど、カードの年間利用金額が多くなっていく傾向にあります。会員をやめる割合も低くなります。

 そのためカード会社は、新規会員の獲得以上に、既存会員へのサービス向上に注力します。顧客との長期の付き合いが最も重要だと考えているからです。

川又 英紀 hkawamata@nikkeibp.co.jp