ライフスタイルや価値観、趣味、し好といった人間の心理に深くかかわる属性情報。いち早く着目して、ヒット商品の開発や優良顧客の拡大につなげる企業が登場している。

ある自動車販売店で、同じ150万円の輸入車を買ったAさんとBさん。数年後、この販売店は販促のために、同程度の価格で買える新型車のカタログを2人に送りました。

 Aさんは興味を示して店を訪れましたが、Bさんは全く反応しませんでした。2人の行動が異なった理由は、車に対する価値観が違うからです。Aさんは、価格が手ごろであるかどうかを重視するタイプの人。一方、Bさんは希少性に価値を認めるタイプだったのです。前回、車を購入したときも、国内で200台という限定車だったことが決め手となりました。

 同じ商品を買ったとしても、その動機は各人各様。顧客はそれぞれ価値観が異なります。消費行動を決める人間の価値観やし好、ライフスタイルのことを「サイコグラフィック(心理的特性)」と呼びます。

◆効果
購買動機を把握する

 いつ何が売れたかはもちろん、買った顧客を特定した形で販売情報を管理する企業は今や珍しくありません。誰がどんな商品を買っているかといった情報は、新商品の開発や販促に大いに役立ちます。ところが、せっかく活用しても期待通りの効果を得られずに悩んでいる企業が少なくありません。

 多くの企業は、年齢や性別、住所、職業といった情報で対象顧客を特定しています。これらの情報は、「デモグラフィック(人口統計的特性)」と呼ばれています。年齢や住所も貴重な情報ですが、肝心の「なぜ買ったのか?」が分からないことが課題になっています。サイコグラフィックをとらえることで、顧客が消費行動を起こす動機が見えてきます。「価格を重視」や「希少品を好む」といった価値観が分かれば、買ってくれそうな商品の目星を付けやすくなります。

◆事例
他社との差異化を狙う

 ジェーシービー(JCB、本社東京)は昨年4月から、クレジットカード会員のライフスタイルやし好に合わせて加盟店を案内しています。圧巻は、今秋から始めるダイレクトメール。販促情報の訴求方法を顧客の価値観に応じて変え、購買意欲を掻き立てるという画期的な取り組みです。

 例えば、あるイベントに関するキャンペーン情報では、「本物志向」の顧客には、文章を縦書きにしたり、高級感のある写真を大きく掲載します。顧客が「楽しさ重視」の人ならば、大勢の観光客でにぎわう写真を目立たせるといった具合です。

 JCBは、従来の分析方法では消費行動の背景までなかなかつかめなかったことから、サイコグラフィックに着目したのです。顧客戦略でしのぎを削る同業他社との差異化に大きな強みとなるでしょう。

相馬 隆宏 souma@nikkeibp.co.jp