情報システムを導入・維持するのにかかる総費用のこと。ハードウエア購入など直接の費用だけではなく、利用者の「時間の浪費」など間接的な費用も含めて計算する。

ある企業が、新たに電子精算システムを導入しました。「我が社も今日からIT(情報技術)経営だ。しかも俺が値切ったおかげでたった100万円の費用で済んだ」。A社長はご満悦です。

 しかし、情報システムにかかる費用は、直接の購入費だけではなく、利用者の人件費など「見えない費用」を含めた「TCO(所有総費用)」で把握すべきです。

 実際、この企業では導入初日から見えない費用が顕在化。朝、パソコンに詳しいB君は隣のCさんから「精算ってどうするんだっけ」と聞かれました。B君は時間をかけて手取り足取り使い方を教えました。

 それが終わると、今度はD課長に呼ばれました。「Cさんの交通費を承認したいのだが、うまくいかないんだ」。D課長のパソコンは相当古く、新システムが正常に動作しません。試行錯誤をするうちに、パソコン自体が動かなくなり、修理に出すことに。D課長は当面、交通費の承認どころか、電子メールも見られなくなってしまいました。B君も今日1日、本来の仕事を全く進められませんでした。

◆効果
投資対効果が明確に

 TCOは、調査会社の米ガートナー・グループが提唱した概念です。システム導入の投資対効果を見るには、投資(=費用)の正確な把握が必要ですが、この計算にTCOの考え方が広く使われています。

 TCOの構成要素は4つ。(1)資産コスト(ハードウエアとソフトウエアの購入費など)(2)技術サポートコスト(利用者の教育や質問に答えるヘルプデスクなどの費用)(3)管理コスト(資産管理やセキュリティ管理などの費用)(4)エンドユーザーコスト(利用者が同僚に操作を教えたり、業務に関係ない作業をするための費用)を測定します。

 A社長は(4)の費用、つまりB君たちの苦労を全く認識していません。利用者教育が不十分だったり、古いパソコンを買い換えなかったりしたため、全社的に業務が混乱。見えない費用をたっぷり支払うことになったようです。

◆事例
標準化で費用削減

 特に見えない費用の温床になりがちなのが、社内に無数にあり管理が行き届かないパソコンです。

 米インテルは、全世界で約10万台あるパソコンについて、継続的にTCOを測定。デスクトップパソコンのTCOは1台当たり約2500ドル(2002年時点)で、一般企業の半分程度です。うち、資産コストの比率は約40%と一般企業より高いものの、高性能のパソコンを使う、機種を標準化する、ソフトの更新を自動化するなどの方針で、資産以外の費用を抑えました。

清嶋直樹 nkiyoshi@nikkeibp.co.jp