経済産業省が2002年12月に発表したIT(情報技術)技術者のためのスキル管理体系。企業の枠を超えたスキル管理体系の標準化を図る狙いがある。

 あるシステム監査技術者によれば、地方裁判所における民事調停の件数ワースト3は第1位がカード破産、第2位が不良建築、第3位がコンピュータ関連訴訟だそうです。コンピュータ関連訴訟が増加している背景には、まだIT(情報技術)業界の歴史が浅く、全般的に品質管理が未成熟なことがあるとの見方が一般的です。

 システム構築の品質管理は、ソフト技術者やプロジェクトマネジャー、コンサルタントといった人材のスキル向上を抜きには考えられません。しかし従来は、技術者のスキルは、主にソフト会社やハードメーカーの認定資格で語られる傾向がありました。

 そこで新たな評価体系を提示しようと、経済産業省が昨年12月に公表したのが「ITスキル標準(ITSS)」です。プロジェクトマネジメント、ITスペシャリスト、コンサルタントなど11職種38分野のスキルを、それぞれ7段階で定義しています。

◆効果
スキル管理の体系を提示

 経産省は、ITSSを「IT業界にスキル管理の辞書として使ってほしい」(商務情報政策局情報処理振興課)と言います。大手ソフト会社やネットワーク機器メーカーなどの技術認定は、技術者の囲い込み政策の一環として、自社製品の導入やシステム構築に必要な知識を問うたものであり、汎用的な価値を示すものではありません。

 そこで経産省としては「要件分析・定義ができるか」「ユーザーのビジネス目標を把握できているか」といった、より包括的なスキル管理や教育体系をIT業界に浸透させたいというわけです。

◆課題
客観性の保証ではない

 ITSSが役立つか否かは、「国立有名大の博士号取得者やMBA(経営学修士)が本当に有能で価値は高いのか」という議論と本質は同じです。こうした資格を取得している場合でも、コミュニケーション力や問題解決力が高いのかどうかは、実務経験の履歴を確認したり、面接をして推し量るしかありませんでした。

 ITSSもレベル審査において、革新的なアイデアを取り入れたというわけではありません。過去に参加したプロジェクトの規模などに応じてスキルの熟達度を当てはめるように提示するにとどまっており、それらの履歴の真実性を監査する、あるいは各種技術試験とひも付けるといった厳正なフレームワーク(枠組み)を作る意向は経産省にはありません。

 このため、システム構築会社などがITSSに基づいたレベルの人材を主張したとしても、スキルそのものの客観性が保証されているわけではありません。

井上健太郎 kinoue@nikkeibp.co.jp