TOC(制約条件の理論)で利用する管理会計手法。時間当たりのキャッシュを最大化するのに適した考え方を取り入れている。製品別の採算性評価などに用いる。

 TOC(制約条件の理論)を考案したエリヤフ・ゴールドラット博士は「原価計算は、生産性の最大の敵である」と主張しています。キャッシュフローを最大化する意思決定に適した会計手法は原価計算ではなく、「スループット会計」だと言うのです。

 スループット会計とは、キャッシュを生み出す速度に着眼した会計手法です。具体的な例で考えてみましょう。

 喫茶店主のAさんは、カキ氷と、フルーツパフェのどちらかを夏のメニューに加えようと考えました。値段はカキ氷が200円、フルーツパフェが600円です。材料費はどちらも売り値の25%でカキ氷が50円、フルーツパフェが150円です。

 さて、どちらをお客さんに薦めたほうが儲かるでしょうか。

◆効果
キャッシュを改善

 単純に値段から材料費を引いた粗利は、カキ氷が150円、フルーツパフェは450円です。

 それぞれ作るのにかかる時間を測ると、カキ氷は1分、フルーツパフェは5分でした。従来の原価計算では、人件費を生産時間に基づいて製品ごとに配賦して、利益を計算します。人件費は時給600円なのでカキ氷では1品当たり10円、フルーツパフェは50円です。すると、1杯当たりの利益は、カキ氷が粗利の150円から10円を差し引いた140円。同様に、フルーツパフェは400円です。原価計算では、フルーツパフェを薦めたほうが儲かりそうです。

 これが、スループット会計では次のような計算になります。カキ氷は1時間当たり60杯、フルーツパフェは12杯作れます。1時間当たりの利益を計算すると、カキ氷は(200円−50円)×60杯−600円=8400円。同様に、フルーツパフェは4800円になります。実際にはカキ氷のほうが儲かることが分かるのです。

 これに対して、従来の原価計算では「キャッシュを生むスピード」という概念がありません。売り上げが不調でも、生産現場が稼働率を上げれば、製品1個当たりの固定費の配賦額が減るので原価が減り、利益拡大に貢献するとの錯覚に陥るのです。

◆事例
意思決定の物差しに

 電子部品製造を手掛ける富士通東北エレクトロニクス(本社福島県会津若松市)は99年からTOCの導入に着手し、社員の間にスループット会計の考え方を浸透させました。

 例えば、新たな設備を導入する際に「スループット(所定時間内のキャッシュ獲得量)はどうなるのか」を報告する体制にしたり、業務を外注する際に「外注時のスループットは社内と比べてどうなのか」と考える習慣を浸透させています。

井上 健太郎 kinoue@nikkeibp.co.jp