商法上の経営責任を負う取締役ではなく、業務の執行責任を負う役員のこと。取締役会で選ばれ、経営戦略に基づいて業務を遂行し、取締役会がそれを監督する。

 4月に発生したみずほ銀行のシステム障害事故は、経営陣に責任感と業務執行能力が欠落していることを浮き彫りにしました。こうした例を挙げるまでもなく、旧態依然とした内向きのマネジメントは、もはや機能不全の状態。企業にとって、株主利益の向上に努めたり、社会的責任を果たすコーポレート・ガバナンス(企業統治)の強化が急務です。

 そうした一環として、多くの企業は「経営」と「執行」の分離を狙い、業務部門の経営責任を担う「執行役員」を置いています。CIO(情報戦略統括役員)やCFO(最高財務責任者)といった役職もその一例です。

 各社が執行役員を置く背景には、取締役の数を減らして取締役会を意思決定の最高機関としたうえで、執行役員に経営戦略を円滑に遂行させたいという意図があります。

◆効果
ソニーが日本で初導入

 日本企業における執行役員制度は、97年にソニーが米国企業のコーポレート・ガバナンスにならって取り入れたのが最初です。現在、ソニーにおける取締役会のメンバーは12人で、大半は社外取締役です。取締役会は、経営戦略の立案と経営の監視といった役割に専念し、各カンパニーのトップなどから執行役員を選出します。そこで選ばれた執行役員が、戦略の遂行とカンパニーごとの経営責任を担うわけです。

 ソニーは2002年3月期に、同業他社が軒並み赤字を計上するなかで経常増益を確保しています。いち早く執行役員制度を導入し、戦略と経営責任を明確にする取締役改革に取り組んだことの影響は、小さくないでしょう。

◆事例
課題は権限委譲と責任の明確化

 この数年間に多くの企業が執行役員制度を取り入れています。例えばアサヒビールは、2000年3月からコーポレート・ガバナンス改革の一環として、取締役を4分の1にして業務の執行メンバーから分離したほか、40歳代の社員を執行役員に任命するなど経営会議の活性化を図っています。

 とはいえ、執行役員を導入したものの、すでに形がい化している企業もあります。加えてお手本だったはずの米国企業でも、IT(情報技術)バブルを経て、経営監視体制の弱体化が露呈し、コーポレート・ガバナンスの難しさがうかがわれます。

 執行役員のあり方で最も問題視されているのは、取締役を執行役員と呼び直しただけのケースです。こうした企業の取締役会は、形式的なままで経営を監視する機能も欠落しがち。執行役員の権限と責任を明確にした企業が増えない限り、経営者の「無責任な発言」は続くのかもしれません。

三田 真美 mmita@nikkeibp.co.jp