組織を取り巻く様々な変化のなかで、社員自らが環境に適応して変革を起こし、発展し続けられる組織のこと。社内外の知識を活用するナレッジ・マネジメントに成功する組織の条件ともいわれる。個の独立と組織力の強化という相反する狙いを実現するために、学習する組織を掲げて業務改革に挑む企業は多い。

 実力主義の人事制度を導入する企業が増えています。自発的に動き、成果を出せる社員を厚遇するのは当然の流れですが、「個」を強調しすぎた企業では、自分の目標さえ達成すればいいと考える利己的な社員が増える弊害も出ています。

 個の自立を促しつつ、組織の強みを伸ばすにはどうすればよいのか。時代の変化とスピードに合ったチームワークのあり方が問われます。

 このモデルとなるのが、「学習する組織」という考えです。これは、1人ひとりの社員が常に学び合う風土を持った組織を指します。変化に対応して絶え間ない成長を続ける企業ほど、こうした特徴を持っています。

◆効果
知識経営のための社風

 では、「学習」が定着するとは、一体どんな状態でしょうか。

 それは、全体最適の視点から業務を改善し続けている企業によく見られます。そうした企業ほどベストプラクティス(優れた他社や部門の実践事例)や問題解決のための勉強会を頻繁に開いたり、現場から提案を集めて地道な改善を続けて、業務革新につなげています。

 「そんなことは日本では古くからやっている」と思う方も多いでしょう。確かに、長らく日本企業の強みは組織の団結力やチームワークでした。しかしその背景にあった高度経済成長や年功序列の人事制度が揺らぐにつれて、組織への忠誠心やチームワークは急速に弱まっています。

 一方、学習する組織の考えは、「経済社会は相互に依存し合っているからこそ、社員は変化に合わせて協力して全体最適に取り組めば、個人の成果につながる」というものです。そうした意識を社員に徹底し、チームへの貢献を反映した評価制度や情報共有の仕組みを整えることで、失われたチームワークが再生する可能性を秘めているのです。

◆事例
先進企業ほど積極的に実践

 すでに学習する組織につながる取り組みは、多くの企業でナレッジ・マネジメントの一環として行われています。なかには米ゼネラル・エレクトリック(GE)や米ダウ・ケミカルのように、学習する組織を標ぼうする企業も増えています。

 日本における「学習する組織」の代表例は、フラットな組織と情報活用で知られる花王です。営業や製品開発などあらゆる部門の担当者は、様々なチャネルから入ってくる顧客の声を共有しています。1人の担当者へ向けられた声でも、そこから組織全体が学習する仕組みを作っているのです。

 こうしたシステムを使って、現場の社員が品質改善やサービス向上につながる改善提案を行い、それを実際に行動に移しています。そこから消費者のニーズを先取りするヒット商品が生まれています。

三田真美 mmita@nikkeibp.co.jp