情報システムの機能や概要を文書に記述するための表記方法。情報システムを開発する際に上流工程で利用する。利用者(開発の委託者)と設計者、プログラマーといった開発に携わるスタッフの間で、システムの「青写真」を共通して理解する目的で開発された。開発元は、開発ツール大手の米ラショナルソフトウェア社。

 どのような分野であろうと工業製品には、開発に携わる人々が共通で理解できる設計図があるのが普通です。設計図がなければ、繰り返し同じ製品を生産することができなくなるし、次の製品のために仕様や機能を改良することもままならなくなるからです。

 音楽や舞台といったソフトウエアの世界でも、楽譜や台本が設計図と同じような役割を果たします。これを見れば、第三者が同じ作品を作り出すことが可能になります。

 ところが情報システムの世界では、設計図に相当するものがこれまではありませんでした。もちろん、システムを抽象化した「要件定義書」や「フローチャート」といったものは存在しますが、実は開発関係者が共通で理解できるものはありませんでした。

 例えば、開発を委託する利用企業は、「業務フロー図」を使って設計者に目的や機能、概要を説明。これを受けた設計者は、「データフロー図」といった設計図を作成し、プログラマーに機能を解説。プログラマーは、これをもとにプログラムの設計図となるフローチャートを作成する——。このように、開発の工程ごとに異なる設計図を作成しているのがシステム開発の現状なのです。

◆効果
開発生産性を大きく向上

 システムごと、さらには開発工程ごとに設計図を作り直していたのでは、開発効率が高められないことは言うまでもありません。ほかの工業製品に比べて、情報システムの生産性がなかなか向上できない理由もここにあります。こうした問題を解決するために開発されたのが「UML」です。

 UMLを一言で表現すると、利用者(開発の委託者)や設計者、プログラマーといった開発関係者が共通で理解できるように、設計図の書き方を標準化したものです。これまでシステム開発で使われてきた仕様書や要件定義書、業務フロー図、フローチャートなどに代わる「設計図の表記方法」です。利用企業のシステム部門や、システムの設計者やプログラマーが皆、UMLで記述された設計図をもとに設計・開発作業が進められるようになるのです。

◆課題
利用企業への浸透がカギ

 UMLは、システム設計者が従来使ってきたデータフロー図といった設計手法との相性が良く、システム開発業者において徐々に浸透し始めています。将来は、デファクト・スタンダード(事実上の標準)になる可能性も秘めています。そうなれば、UMLを修得していない利用企業は、システム開発のスピードで他社に後れを取ることになります。

 ただし、UMLの普及に疑問を投げかける声も少なくありません。利用企業側における浸透が遅々として進んでいないからです。UMLの効果が大きく表れるのは、利用企業までも含めて開発現場すべてが採用した場合です。システム開発業者のなかだけで閉じていたのでは、従来の手法とそれほど大きな違いはなくなってしまいます。

吉川和宏 kyoshika@nikkeibp.co.jp