毎月の進ちょくを全社員に公開

●三位一体の改革で「顧客第一主義」を徹底
●顧客の声や社員の気づきから改善した例

 各指標の実績は約2万人いるグループ内の全社員に公開する。「CS100点運動システム」と呼ぶシステムを開発し、イントラネットから参照できるようにした。部支店や課支社といった営業拠点に加えて、代理店の取り組みの成果が一目りょう然になる。実績データは、既存の情報システムから自動的に収集する。例えば、「証券作成平均日数」は、契約管理システムから抽出できる。

 現在は月ごとに集計結果を公開している。情報を更新すると、社員が毎日必ず見るイントラネットで告知。進ちょく状況を毎月欠かさず確認させる仕組みにして、顧客満足度を高めようという意識を根付かせる。

 従来も、顧客満足度を日常業務で意識してもらおうと、eラーニングで研修を実施。理解度テストで80点以上を取ることを義務付けていた。だが、「これだけでは、目の色を変えてもらえない」と鈴木課長は話す。

 活動の成果は、各指標の実績値で示すだけではなく、一定の規則に基づいて点数化する。例えば、証券作成平均日数であれば、6.5日以上かかると6点、5.5日以上6.5日未満であれば12点を与える。各指標の得点を合計し、苦情があるとそこから減点する。

 証券作成平均日数は30点満点、満返金翌営業日払率は10点満点といった具合に、重要度に応じて指標ごとに点数配分を決めた。すべての指標で優秀な実績を上げた拠点は合計点が100点となるわけだ。

 今のところ、取り組みの成果によって給与に差がつくといったインセンティブは与えていない。活動を一時的なもので終わらせずに長く継続させるには、まず、顧客の立場に立ってサービスを提供するという意識を高めることが大事だと考えたからだ。

 全拠点の成果をガラス張りにしたのは、そのための手段である。自分の拠点がほかの拠点より劣っていることが分かれば、改善しようという意識が自然と生まれてくると期待する。

 わき上がってきた意欲を冷めさせないためにも、できるだけ成果に結び付くように本部が拠点を支援する。こんな活動を展開した結果、証券の作成期間を短縮できたといった成功事例をイントラネットで紹介している。

 CS100点運動は社内の活動だけにとどまらない。今年2月から、「代理店CSレポート」と呼ぶ成績表を、営業担当者が各代理店に配布し始めた。

 全国に約8万店ある代理店と共同で顧客満足度の向上に取り組む。代理店にとっては、顧客満足度を高めれば契約件数の拡大につながり、より多くの手数料を得られるメリットがある。

 自社の社員と違って統制の取りにくい代理店のサービス強化は、損害保険会社にとって悲願である。

 代理店のサービスも同じ8つの指標で評価する。代理店CSレポートでは、レーダーチャートで弱点を分かりやすく示したり、各指標の月別推移を載せて改善の成果を実感できるようにした。営業担当者と代理店は共通の指標を基に改善策を検討していく。

 今年3月の証券作成平均日数は全社平均で5.3日となり、昨年10月から約1日短縮する成果を上げている。

顧客満足度は速さが勝負

 CS100点運動のほかにも、着々と手を打ってきた。その代表例が、「CS・苦情システム」や「No.1情報コーナー」と呼ぶ情報システムの活用である。顧客満足度の向上にスピードを重視する三井住友海上は、IT(情報技術)を積極的に取り入れて情報を素早く共有する体制を築いている。

 2002年11月に稼働させたCS・苦情システムは、全社の苦情を一元管理するデータベースである。蓄積した苦情を、契約・募集行為や接客態度といった内容別に分析できる。苦情を商品やサービスの改善に生かすとともに、苦情対応のスピードと質を高めることを狙って開発した。

 実は、CS100点運動の指標を決めるのにも、CS・苦情システムを活用している。端的に言えば、これまでに顧客から受けた苦情のうち、最も顕著なものを洗い出したのである。「CS100点運動は、お客様の不満を解消することに主眼を置いた」(近藤常務)

 例えば、「証券が届かない」という声が募集や保全に関する苦情の約2割を占め最も多かったことから、証券作成平均日数を最重要指標として設定している。

 CS・苦情システムは、顧客や代理店から受けた苦情を、社員なら誰でも登録できる。登録した苦情は、すぐさま関連部署で共有する。苦情の受け付けに始まって、初期対応の結果や解決したかどうか、再発防止策などを指導する部支店長のコメントといった記録を残すことで進ちょくを管理する仕組みである。苦情を登録してから2日以内に初期対応の結果が入力されないと、電子メールで督促する。

苦情を隠さない風土を作る

 さらに、毎月、苦情の棚卸しを実施する。1カ月以上、未解決の案件があれば、部支店長へ報告。対策を検討するようにして苦情が放置されたままにならないようにした。こうした取り組みによって、未解決の苦情の数は激減。従来は、1カ月以上解決されない苦情が80件程度あったが、今では10件くらいしかなくなっている。

 苦情を隠さずに報告する風土作りも進めている。一般的に、苦情はあまり皆に知られたくないと思うものだからだ。社員が報告をためらえば、せっかくの仕組みも役に立たない。そこで、こんな工夫を施した。苦情の件数が多い部署を罰したり、評価を下げたりせずに、「むしろ、件数が少ない拠点へ行って、本当にこれしかなかったのかと尋ねている」(鈴木課長)。

 苦情への対応を強化した結果、苦情そのものの数も一部で減っている。例えば、事故時の応対や保険金の支払いなどを担当する損害サービス部門への苦情は、従来と比べて4割減った。だが、課題も残されている。

 「営業部門への苦情はほとんど減っていない」(鈴木課長)のである。保険の契約や保全といった営業にかかわる苦情を減らすには、代理店の協力が欠かせないためだ。だからこそ、代理店と一体となってサービスの強化を目指すCS100点運動は、この課題を解決するための切り札として重要な役割を担っている。

2万人の「気づき」を共有

 一方の「No.1情報コーナー」は、イントラネット上に作った電子掲示板。昨年4月から、約2万人のグループ全社員が、改善提案や営業ノウハウなどを共有している。改善提案だけでも、年間で約1000件の投稿がある。これまでに、商品パンフレットの挿絵や保険証券の郵送用封筒の表記など約400件の改善を実施した(左の図)。

 自動車保険「MOST(モスト)」の「対物超過修理費用特約」は、No.1情報コーナーへの提案を基に開発した商品の1つ。新商品は、契約者が事故を起こして相手の車を破損させた場合、修理にかかった実費を支払うという特約。3年弱の累計で約700万台の契約を獲得する大ヒットに貢献した。

 従来の商品は、破損させた車の時価額分までしか保険金は支払われなかった。ところが、古い車になると、時価額より修理費が高くなることがある。趣味で車に乗る人は、高い修理費を払ってでも同じ車に乗り続けたいと思うことが少なくない。その場合、被害者から保険金で賄えない差額を請求されることがあり、契約者から不満の声が上がっていたのである。

相馬 隆宏 souma@nikkeibp.co.jp