三井住友海上火災保険が、「顧客満足度No.1」戦略を打ち出した。定量的に活動の成果を見えるようにして、代理店も巻き込んだ意識改革に取り組む。顧客満足度を高めるカギは、KGI(重要目標指標)とKPI(重要業績指標)の2つの指標だ。

●指標の設定と情報の公開で顧客満足度の向上を全社に根付かせる

 今年8月から開催されるアテネ五輪。三井住友海上火災保険の土佐礼子選手が、女子マラソンで日本代表の1人に選ばれたのは記憶に新しい。

 「土佐のファンになったお客様が当社のファンにもなってくれれば、顧客満足度(CS)の観点からも大きな効果がある」。近藤和夫常務がこう考えることには理由がある。

 同社は昨年10月から、「CS100点運動」を開始した。営業部門のサービス強化を中心に、顧客満足度を高めるのが狙いだ。定量的な指標の設定と情報の公開という2つの方法で、顧客満足度の「見える化」を徹底した点が大きな特徴である。近藤常務は、顧客満足度向上のかなめとなるCS委員会で委員長を務めている。

 今や、どこの企業でも顧客満足度の向上をうたう。だが、大きな成果を上げられないまま、掛け声倒れに終わっているケースが少なくない。

 顧客満足度と一口に言っても、その解釈は十人十色。現場の社員がバラバラに動いていては、顧客満足度の向上はままならない。何かしら共通の指標が必要だ。ただし、指標を掲げても、一体何をすれば成果に結び付くのかが分からなければ目標を達成しにくい。さらに、熱心に取り組む人が一部の社員に限られ、活動がちっとも根付かないケースさえ見受けられる。

 実際、三井住友海上自身も悩みを抱えていた。「これまでも『お客様満足度調査』を実施していたが、何をすれば満足度が上がるのかがはっきりしなかった」。CS100点運動を推進する経営企画部経営企画グループの鈴木高志課長はこう打ち明ける。

 顧客の来店頻度といった指標を設定して、顧客満足度が向上したかどうかを定量的に測定するだけなら珍しいことではない。

ゴールとチェックポイントを示す

 三井住友海上が考えた指標の決め方は一味違う。指標は合計8つを用意したが、「成果指標」「行動指標」「参考指標」の3種類に分けられる。ミソは、成果指標と行動指標だ。

 成果指標は文字通り、最終的な顧客満足度を評価するためのもの。具体的には、「証券作成平均日数」や「満返金翌営業日払率」などがある。それぞれ、顧客から申し込みを受けてから保険証券を作成するまでにかかった平均日数と、積み立て保険で満期を迎えたときに支払う「満期返れい金」を、満期日の翌日に支払った件数が、対象となる保険契約件数に占める比率を示す。

 ただし、どうすれば証券の作成日数を減らしたり、間違いなく満期日の翌日に返れい金を支払えるようになるかが分からなければ、社員は行動に移しにくい。

 そこで、これらの成果指標に結び付く具体的な行動を示したのが、「代理店契約入力率」という行動指標である。代理店が直接、契約情報をオンラインで入力して計上すれば、翌日には保険証券が郵送される。

 これに対してオンラインで入力しない場合、営業拠点に申込書を直接持ち込むか郵送することになる。三井住友海上が受け取った申込書を基に、契約管理システムにデータを入力しなければならないため、その分、証券の作成までに時間がかかる。

 つまり、代理店が直接入力する比率を高めれば、それだけ多くの顧客が早く証券を受け取ることになり、全体の顧客満足度が高まるというわけだ。

 三井住友海上の成果指標と行動指標はそれぞれ、「KGI(重要目標指標)」と「KPI(重要業績指標)」と呼ばれるものに相当する。KGIは、投資や業務改革で最終的に達成したい目標。一方のKPIは、最終目標に向かって遂行されているかを見るための「チェックポイント」を意味する。

 取り組みの進ちょくを確認するチェックポイントを設けることによって、最終的な目標を達成しやすくなることから、投資対効果の測定に用いられている。

 CS100点運動の行動指標は、社員の行動を顧客満足度に直結させる役目を果たすのだ。

相馬 隆宏 souma@nikkeibp.co.jp

見えない不満を吸い上げよ
成功事例共有し自発心醸成

近藤 和夫 氏[常務 CS委員会委員長]

 「CS100点運動」で、現在設定している指標が最適とは限りません。随時、見直していき、必要に応じて新たな指標を加えたり、既存の指標を置き換えていこうと考えています。やはり、継続していかなければ気づかないことはありますから。

 適切な指標を選ぶためには、お客様は何に不満を感じているのか、何をしたら喜んでもらえるのかを正確につかまなければなりません。お客様の声をどれだけ漏れなく吸い上げられるかが大切です。

 お客様の声をどうやってつかんでいくかや、どの指標を改善していくかを選ぶことが、(経営会議体の課題別委員会である)「CS委員会」の大きな役割の1つです。

 お客様の声を積極的に集める手段としては、例えば、アンケート調査があります。保険金をお支払いしたお客様に、「何か問題はありませんでしたか」といったことを尋ねています。昨年5月からは、保険証券を送る封筒にコールセンターの連絡先を掲載しています。

 何かあればお客様がすぐに当社へご連絡できるようにしたことで、寄せられる苦情の件数は従来の1.2~1.3倍くらいに増えてしまいました。ですが、その分、今までは内在していて分からなかったものが浮き彫りになりましたので逆に良かったと思います。

 お客様の目線で考えることを、職場に定着させることも肝要です。日常的に社員本人が意識しないレベルまで持っていくのが目標です。例えば、電話の応対コンクールを自発的に開催するといった工夫が、いろんな職場で次々と生まれるようにしたい。しかし、会社側から指示するだけではなかなかできません。

 そこで、優れた取り組みがあれば、できるだけ全社に広く知らせていくつもりです。すでに、イントラネットで成功事例の紹介を始めています。社員が自由に意見を書き込める「No.1情報コーナー」も有効だと考えています。

 今後は年に1回、「CS100点運動ノウハウ交流会」を開催する予定です。これはと思う取り組みをした職場の代表者に具体的な活動内容を発表してもらい、全社で生かせるようにしたいと考えています。(談)