ドラム・バッファー・ロープを導入した変革プロジェクトの段取りと概要
バッファーの在庫管理を通じて生産ペースを調節する

バッファーの適正量を常に監視

 このように、TOCのDBRでは、あえてバッファーに仕掛かり在庫をある程度置くことを前提に、全体の在庫削減を図るのが、JITとの大きな違い。といっても、バッファーの大きさは事前に各工程の処理時間を厳密に調査して決定する。そのうえで、各バッファーに管理者を置いて仕掛かり在庫を適正量に保つよう監視する。

 グンゼの電子部品製造拠点であるエルマは2拠点の工場のプロセスが絡んだ生産体制になっている。各工程の処理時間を徹底的に調査して、ボトルネックをまず探した。

 京都府亀岡市の工場が主力拠点だが、前半の工程は滋賀県守山市の工場も分担している。主な生産プロセスは(1)ガラス・フィルムの資材投入、(2)フィルム基板上に透明な導電膜を真空蒸着(スパッタ)、(3)フィルムを所定の大きさのシートに裁断、(4)染料を印刷し乾燥、(5)ガラスとフィルムを最終製品に合わせた大きさに裁断して張り合わせ、コネクタなどの部品と組み立てる――となる。

 ボトルネックであり、生産スケジュールを司る制約工程はガラスとフィルムの乾燥工程に決めた。ただし実は、製造品の大きさ次第で、本来のボトルネック工程は異なることが分かっていた。しかし、品番によって制約工程を変更しながら管理するのは煩雑すぎる。「全製品に共通で、しかもほぼボトルネックの工程と同等の生産能力しかない工程という条件で制約工程は乾燥工程に決めた」(グンゼ テクノ・マンパワーセンターの遠藤有二氏)

 本来、制約工程は1カ所であるべきだが、あえて2つ目の制約工程も亀岡工場の別な課に設けた。これは、生産管理上の理由ではなく人材育成上の理由である。「制約工程を管理できる人材を、複数の課で養成しておきたいと考えた」(同)

 たらいに相当するバッファーは全部で7カ所設定した。バッファーの大きさは、製品によって変えている。グンゼでは、タッチパネルを大きく3種類の製品群に分類しているが、それぞれに「各工程における過去1年間の最長トラブル時間+通常の作業時間」をベースにバッファーの大きさを設定し、運用しながら微調整している。

 この制約工程とバッファーを管理する業務は以下のようになる。まず通常の生産スケジュールは制約工程を受け持つ「ドラム・バッファー・マネジャー」が計画する。制約工程以外の工程のバッファー・マネジャーは、その計画に沿いつつ、仕掛かり在庫の量が、バッファーの3分の2程度になるように生産ペースを調節している。

 実際には、仕掛かり品を置くスペースに、赤・黄・緑の枠取りをして、仕掛かり品を積んだ台車などが緑の領域からなくなると、生産ペースをやや上げ、緑の領域からあふれそうになると生産ペースを落とす。

 もし何らかのトラブルで、バッファーの仕掛品が赤の領域まで減りそうになると直ちにその工程のバッファー・マネジャーは制約工程担当のドラム・バッファー・マネジャーに知らせる。それを受けてドラム・バッファー・マネジャーはスケジュールを直ちに変更する。例えば亀岡工場内のスパッタ工程にトラブルが出たとすれば、守山工場のスパッタ工程への資材投入を増やしてバックアップするよう指示するなどだ。

 DBRの導入に当たっては従業員の意識改革が不可欠だった。「バッファーの適正水準を無視して勝手に生産ペースを変えられては困る。だが、『手待ちの状態になっても構わない』といった発想は従来の現場の常識に反する。そこで、TOCの解説書によく紹介されているサイコロゲームを従業員にやってもらいながら、制約工程やバッファーを管理する重要性を理解してもらった」(遠藤氏)

 その結果、残業時間は半分以下になり、一定期間の生産金額を同期間の労務費で割った生産性指標は、27%上昇した。

スケジューリングにはITが必要

 今回の成果を踏まえ、グンゼは繊維事業への展開の調査研究を進めているところだ。ただし電子部品事業においても、今後は新たにITを活用して改善を進める。

 現在は生産スケジュールの策定に表計算ソフトを使っている。製品を3つにグループ分けして、各工程の平均リードタイムに基づいて資材の投入計画を策定している。だが、実際は同じグループでも品番ごとに処理時間が異なり、実態とかい離がある製品もある。

 そこで、新たにスケジューリングソフトを導入する予定だ。「品番別に細かく処理時間を管理して、計画立案や日々の計画変更に対するシミュレーションを迅速に行えるようにする。そうなれば、納期短縮や納期順守率が一層向上する」(遠藤氏)

井上健太郎 kinoue@nikkeibp.co.jp