グンゼが生産リードタイムや在庫を大幅に削減する生産改革を進めている。TOC(制約条件の理論)を採用し、電子部品製造工場にまず導入。生産リードタイムを、目標を大幅に上回る5分の1に短縮した。
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この結果、携帯情報端末メーカーなどの取引先に対して、量産品の場合で30日間と見積もっていた納期を今では10日間で契約できている。それでいながら納期順守率は12ポイント高い82%へと改善したという。
JITと天秤にかけ選択
当初、同社はトヨタ自動車流のジャスト・イン・タイム(JIT)方式を導入するか、TOCを導入するかで実は迷っていた。最終的にTOCを選んだのは、「当社の業態で、JITが目指す生産の同期化を進めることは困難だ」(グンゼで生産改革を推進している林洋幸取締役 兼 CTO テクノ・マンパワーセンター長)と判断したからだ。糸から生地を作りそれを染めたりさらして、裁断・縫製していく一連のプロセスにおいては、各工程の加工時間やロットサイズが大きく異なったり、仕掛かり品がライン間を行ったり来たりする工程がある。電子部品事業部の工場においても同様だ。生産の同期化を徹底的に図るJITを適用するには、生産プロセスが複雑すぎると判断した。
一方で、林取締役らグンゼ幹部はかねてからTOCにも注目していた。そこで、TOCのコンサルティングを手掛ける日本総合研究所と2002年4月に契約。TOCを、まず電子部品事業部から適用したのは、そこで成果を出してから、繊維関連の主力事業に適用したいと考えたからだ。
グンゼの電子部品事業はあまり知られていないが、携帯情報端末などに使われるタッチパネルが主力商品だ。タッチパネルとは、表面に透明なスイッチを形成したフィルムをガラスに張り合わせたもの。同事業の生産を担う子会社、エルマ(本社京都府亀岡市)は売上高52億7000万円(2003年3月期)の事業規模を持つ。
電子部品事業は、ここ数年、台湾など海外メーカーの攻勢が厳しくなっている。販売担当者からは「納期が短いといった長所を打ち出したい」という要望が強くなっていた。
そうした経緯から、TOC導入の目標としては生産リードタイムの短縮を最重点課題に置いた。当初は21日間を半分以下にする目標だった。
チェンジ・マネジメントの成果
2002年4月から6月までの3カ月間で、TOCの生産改革手法であるDBR(ドラム・バッファー・ロール)の導入を完了した。同年7~9月には早くも生産リードタイムを5分の1にするといった成果が表れた。その後も改革効果は持続しているという。
実は、この変革プロジェクトにおいて、IT(情報技術)関連の新規投資は一切行っていない。新たな計算処理は表計算ソフトの活用程度で済んでいる。この約3カ月間に実施したのは、生産の各工程の処理時間を徹底的に調査し、DBRの方法論に基づいて業務ルールや、作業現場の管理指標を変更しただけだ。
DBRとは何か。簡単な例えとしては、水の出の良い水道管と、出の悪い水道管が垂直に連なり、中間に水をためるたらい(バッファー)がある構成になぞらえると分かりやすい。
上流で水の出の良い水道管があったとしても、中間で水の出の悪い水道管がボトルネックとなる。たらいに水が大量にたまるだけで、全体を流れる水の量を増やすことはできない。
グンゼの生産プロセスでは、従来はこうしたボトルネックを意識していなかった。これでは、それぞれの水道管の担当者が、水を多く流そうと努力しているようなものだ。「これまでは、工程ごとに部分最適で生産効率を追求する管理体制だった。このため、個々の工程が後の工程に過剰な仕掛かり在庫を押し込んでも平気だった」(林取締役)。
その結果、仕掛かり在庫が工程間で大量に積み上がっていた。仕掛かり在庫が多くなれば当然、資材を投入してから完成品になるまでのリードタイムも長くなってしまう。
DBRの業務ルールを導入した新工程では、ライン全体の生産スケジュールは、ボトルネックの水道管を管理する作業者が決定する。そのスケジュールに従い、上下にある水道管の担当者は、資材投入などを行う。細かい生産ペースの調節は、たらいにたまる水の量を目安にする。自分の後ろのたらいにたまる水があふれてくれば生産ペースを落とし、少なくなりすぎれば生産ペースをやや上げるわけだ。