匿名にしたら悩みや疑問を引き出せた
 電子会議室を実名から匿名に変えたら、現場が業務のノウハウを共有するようになった――。こんな成果を、住友生命保険が1月に開催された日本ナレッジ・マネジメント学会の研究部会で明らかにした。

心理的な敷居を下げる

 「3年ほど前に開いた実名で書き込む電子会議室では、極端に高度な話題とサークルの話が中心で、業務の悩みや疑問を書く人が少なく寂れてしまった。そこで、匿名の必要性を感じた」。営業企画課の竹内幹佳副長は、経緯をこう説明する。

 竹内副長によると、同社には弱音を吐くことを疎んじる風土や、部課間の人事異動が少ないので他部署の人の対話に関心を向ける気風に欠ける傾向があるという。

 しかし損害保険との相互乗り入れや、新商品が続々と登場するなど、生保業界の業務は複雑になりつつある。「商品知識や業務ルールについて、現場が疑問を率直に打ち明けて理解を助け合う風土が不可欠」(竹内副長)である。

 そこで2001年11月から、「スミセイ 教えて!答えて!ドットコム」という電子会議室の運営を始め、ニックネームでの登録を呼びかけた。初日から登録が1000人を超え、現在は外勤を含め1万2000人の利用可能な社員中、約5000人が登録。実際に発言した人は900人に上るという。

毎日10~15件の質疑応答

 現在の参照数は1日当たり約5000件、質疑応答は毎日10~15件あるという。話題のきっかけを作るため、登録者を対象にメールマガジンを発行し、業務マニュアルの内容をエッセイ風の文章で掲載するといった工夫も利用件数の向上に奏功している。

 会議室でやり取りされる話題は、年金制度関連の知識や他社の保険商品との比較、接客の工夫といった業務上の知識やノウハウに加えて、禁煙の要望、朝礼の話題探し、パソコンの操作など多岐にわたる。

 匿名ゆえに無責任な発言や誹謗中傷といった発言がないかどうかは随時チェックを怠らない。運営当初は削除する発言が30~40件に1件はあったものの、今ではなくなったという。

井上健太郎 kinoue@nikkeibp.co.jp