イオン(旧ジャスコ)は9月、約350億円をかけて全社的なシステムを刷新するIT(情報技術)戦略構想を発表した。マーチャンダイジング(商品政策=MD)や物流、顧客管理、後方業務、ヒューマンリソース・マネジメント、会計の6分野にわたったシステムを、2004年をメドに再構築する。

 イオンは、10年後に世界の小売業の10指に入ることを掲げている。そのために、米ウォルマート・ストアーズなどのグローバルな小売業を手本に、IT投資による業務プロセスの変革やコストの最小化などに取り組む。10年後には、連結営業収益を7兆円、経常利益率を4%(現在は2.8%)以上にすることを目標にしている。

 MD分野では在庫や商品管理を徹底したうえで、販売計画や需要予測システムを活用して、過剰在庫や機会損失によるロスを削減。物流分野では、メーカーとの直取引も含めたグループ全体での最適な調達機能を開発する。

 このほか、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)センターを設置して、ワン・トゥー・ワン・マーケティングを進める。ERP(総合業務)パッケージを導入し、後方業務の半減も目指す。

アパレル部門に新MDシステム投入

 イオンは97年から、米コンサルタント会社のカート・サーモン・アソシエイツ(KSA)と共同でIT戦略を練ってきた。全体構想をまとめる一方、重要課題であるMDの改革を進め、商品管理を徹底する「新MDシステム」を開発。昨年6月に導入した。

 新MDシステムは、需要予測に基づく自動発注による調達から、商品カテゴリーや単品別の在庫管理、売価管理など様々な処理までを一括管理できるもの。新MDシステムによって、同じ商品でも売れ行きの良い店舗と悪い店舗との間で在庫量を適切に調整したり、需要予測に基づき最適な値付けをすることで、販売機会の損失を防げる。

 イオングループの各店舗では、新MDシステムを紳士衣料部門から段階的に導入を進めている。形状やサイズ、色などによって細かく分類されているワイシャツやスラックスで試したところ、店頭の発注や在庫管理における煩雑な作業を「50%削減できた」(縣=あがた=厚伸IT・物流本部長)という。

 さらに、粗利益もスラックスで5.1%、ワイシャツで1.6%も上昇。商品の回転日数はスラックスが約24%、ワイシャツが15%短縮した。「今年中に婦人服や子供服などの衣料部門全体に新MDシステムを導入し、来年以降は加工食品や日用品などに順次拡大していく考え」(同)。

IT関連企業9社が協力

 このIT投資プロジェクトには、KSA以外に、新MDシステムなどの基となる基幹ソフト「ODBMS」の米JDAソフトウエア、日本IBM、日本オラクル、富士通、サン・マイクロシステムズ、日立製作所、東芝テック、オムロンの合計9社が協力する。

渡辺 一正 kwatanab@nikkeibp.co.jp

記者の視点:企業体質を世界レベルに引き上げるイオンの戦略には注目できる。ただし、複数のコンピュータメーカーを管理しながら、複雑なシステムを構築するのは労力を要する。開発スピードが落ちないことを期待したい。