無線LANがカバーできないエリアでデータ通信するためには,携帯電話やPHSによるデータ通信サービスを利用することになります。従来は数十kビット/秒程度の通信速度でしたが,最近はデータ通信速度が向上。最大数Mビット/秒の通信が可能になっています。

 無線LANを使ったデータ通信は高速ですが,提供エリアが拡大途上という課題があります。これを補完するのが携帯電話やPHSを利用したデータ通信サービスです。以前は無線LANに比べると通信速度がかなり見劣りしていましたが,最近は第3世代携帯電話(3G)サービスの普及やPHSの高速化が進んでいます。

 日本における3Gは,W-CDMAcdma2000 1xの2規格によるサービスが存在します。W-CDMA方式はNTTドコモとボーダフォンが,cdma2000 1x方式はKDDIが採用してサービス提供しています。データ通信速度は,W-CDMAが384kビット/秒,cdma2000 1xが144kビット/秒です。

表1 日本で利用できるまたは検討中の第3世代携帯電話(IMT-2000)のデータ通信 通信速度は同時接続するユーザー数で変わる。
 これをさらに高速化する技術が2001年から2003年にかけてITUで標準化され,日本でも規格化されました。それがHSDPA(high speed downlink packet access)と1xEV-DO(1x evolution-data only)です。3Gの通信速度を最大数Mビット/秒に高めます(表1[拡大表示])。

受信状態が良いほど高速通信できる専用規格

 W-CDMA,cdma2000 1xは音声とデータを同時に利用可能な規格。音声はエリアのどこにいても均一な品質を保つ必要があります。そのため電波の受信状態の良い端末には電波を弱く,悪い端末には電波を強くして,回線品質を均一にする制御を行っています。

 これに対しHSDPAや1xEV-DOは,基地局から携帯端末への下り回線の高速化を主眼に置いたデータ通信専用規格です。基地局が発射する電波の強さを常に最大にして,端末の受信状態に応じて変調方式を変更する「適応変調技術」を利用。受信状態の良い端末ほど高速な変調方式で通信します。つまり基地局の近くなど受信状態の良い場所で利用すれば,最大速度に近い高速通信ができるわけです。逆に基地局から遠ざかったり障害物などで受信状態が悪くなると速度は低下します。

 HSDPA,1xEV-DOともに技術的な仕様は似ていますが,HSDPAはW-CDMA上で,1xEV-DOはcdma2000 1x上で動作します。通信速度も異なり,HSDPAは最大14.4Mビット/秒,1xEV-DOは最大2.4Mビット/秒です。

 PHSにおいても,同様の適応変調技術を用いて下り回線を最大1Mビット/秒に高速化する技術が規格化されています。

図1 無線LANと携帯電話によるデータ通信を併用して切れ目のないモバイル環境を実現 無線LANアクセス・サービスや構内無線LANのエリア内では定額または無料で高速通信できる。無線LANの電波が届かないところでは携帯電話で通信する。一部の通信事業者は無線LANと携帯電話を切り替えるソフトウエアなどを提供している。

提供サービスに応じて速度を変える方式も

 上り回線と下り回線を分ける複信方式にTDD方式を用いたIMT-2000規格の検討作業も進行中です。W-CDMAとcdma2000 1xは上りと下りで別の周波数を使うFDD方式ですが,TDD方式は上りと下りに同じ周波数を用いて送信します。ITUでは,「TD-CDMA」と「TD-SCDMA」の2規格が標準化済みです。特徴は,提供するサービスに応じて上り/下りの通信速度を変えられることです。例えば,音声は対称,データは非対称に上り/下り回線を割り当て,効率良く伝送します。

 TD-CDMA,TD-SCDMAともにHSDPAと同様の仕組みによる高速データ通信技術がITUで標準化されており,最大数Mビット/秒の高速データ通信が可能です。日本では現在,総務省の情報通信審議会において,TDD方式の国内規格について検討しています。

3Gは従量課金だが無線LANなら定額

 3Gと無線LANは料金面でもすみ分けます。3Gの料金体系は一部を除き従量制ですが,無線LANアクセス・サービスのほとんどは定額料金制です。3Gと無線LANアクセス・サービスをうまく使い分ければ,安価に広いエリアで高速データ通信できる環境を得られます(図1[拡大表示])。

 しかし実際に3Gと無線LANを使い分けるには,利用場所が3G,無線LANのどちらのエリアなのか確認し,接続先を切り替えて改めてログインし認証するという面倒な手順を踏む必要があります。そのため一部の通信事業者は,利用場所がどちらのエリアなのか一目で分かるソフトウエアを,パソコンやPDA(携帯情報端末)向けに提供しています。ネットワークへのログインや認証もこのソフトで簡単に切り替えられます。どちらのネットワークを優先的に接続するかあらかじめ設定しておけば,自動的にネットワークを切り替えることもできます。

 携帯電話機でも無線LANを搭載する動きがあり,無線LANのエリア内で高速にデータ通信できる無線LAN機能搭載の携帯電話機が世界各国で登場しつつあります。