携帯電話機を屋内では固定電話機の代わりとして使えるサービスなど,携帯電話と固定電話を融合するサービス展開が本格化しています。サービス推進や技術の確立を目指し,世界各国の通信事業者が「FMCA」と呼ぶアライアンスを設立して活動を進めています。

 無線LAN機能を搭載した携帯電話機が登場し,話題になっています。この端末は,会社の外では携帯電話,会社の中ではIP-PBX下の内線端末として固定電話機の代わりに使えます。

図1 無線LANを使ったFMC(fixed mobile convergence )サービスの例 携帯電話機を,屋外では携帯電話サービスの端末として,屋内ではIP電話サービスの端末として利用する。屋内では無線LANで通信する。ブラウザフォン・サービスも固定系のIP網経由で利用できる。IP電話ではなく,アナログ固定電話を使う場合もある。
 これをさらに一歩進め,携帯電話機をIP電話やアナログ固定電話の端末として利用するサービスを,世界各国の通信事業者が検討中です。携帯電話機を用いながら,屋内では安価な固定電話の通話料金で通信できるようになります。携帯電話機によるデータ通信で固定網のブロードバンド通信を利用できる点もメリットです(図1[拡大表示])。

固定電話のトラフィック需要開拓が狙い

 1台の端末で携帯電話とIP電話(あるいはアナログ固定電話)をシームレスに自動選択できれば,ユーザーは通信手段や場所の違いを意識する必要がなくなります。こうしたサービスを「FMC」(fixed mobile convergence)と呼びます。固定通信(fixed)と移動通信(mobile)を一つのサービスに収れん(convergence)させるという意味です。

 FMCサービスに注目が集まっているのは,世界各国でユーザーの固定電話離れが加速し,さらに携帯電話市場では飽和傾向が顕著になってきたためです。携帯電話しか持たないユーザーが増えた影響もあり,固定電話のトラフィックは大幅に減少しています。そのため固定通信事業者は,FMCサービスの投入で新たなトラフィック需要を開拓し,縮小傾向にある固定通信事業の立て直しを図ろうとしています。

 当面は音声中心のサービス展開になりそうです。しかし日本をはじめ世界各国でADSL(asymmetric digital subscriber line)やFTTH(fiber to the home)などのブロードバンド環境が整いつつあるため,将来はブロードバンド放送や情報家電との連携など,データ通信分野でのFMCサービスも登場してくるでしょう。

表1 FMCサービスの推進団体「FMCA」の概要 縮小する固定通信事業の立て直しを狙い,英BTの主導で設立した。

サービス推進を目指す団体「FMCA」

 2004年7月,FMCサービスの推進を目的として,英BTの呼びかけで世界の主要な通信事業者6社が「Fixed Mobile Convergence Alliance」(FMCA)を設立しました。設立後に米AT&Tなど4社が新たに加わり,他にも参加を表明する事業者が多くいます(表1[拡大表示])。

 FMCAでは協議会が設置され,約2カ月に1度のペースで実現技術や仕様の検討を進めています。過去には2004年5月の第1回ロンドン会合を皮切りに,6月,9月,11月と4回開催されてきました。会合では,各事業者のFMCサービスの検討状況や戦略,トライアル結果などの情報交換を行っています。また複数の通信機器メーカーからFMCサービスを実現する機器やソリューションの提案があり,それらのメーカーとトライアルを実施している事業者も出てきています。今後は,FMCサービスに関するガイドラインや技術仕様の開示を検討します。

FMCサービスの構想を打ち出した英BT

 FMCサービスの推進に最も積極的なのがBTです。FMCA設立の中心メンバーであり,2004年5月には「BluePhoneプロジェクト」と呼ぶFMCサービス構想を発表しています。BT自身は携帯電話事業部門を持たないため,英ボーダフォンUKとの協業でサービスを実現します。商用化は2005年春以降になる予定です。

 具体的には,GSM対応の携帯電話機にBluetoothを搭載。ユーザー宅内にBluetoothのアクセス・ポイントを設置し,BTのアナログ固定電話網に接続します。Bluetoothの通信圏外では,ボーダフォンUKのGSM網に接続する仕組みです。現在の構想では,Bluetoothを通じてやり取りするトラフィックは音声中心で,アナログ固定電話として発着信します。今後は屋内での無線通信に無線LANを適用し,IP電話による音声通話と高速なデータ通信を実現することも検討しています。

 BTは「One-Phone」と呼ぶFMCサービスを1999年に試みたという経緯がありますが,(1)請求書が固定電話と携帯電話で別々,(2)固定と携帯の回線切り替えが手動,(3)端末が高価でサイズが大きい――という問題点が指摘されました。BluePhoneではこれらの課題を克服し,ユーザーの利便性をさらに高めたサービスの実現を狙っています。