無線LANアクセス・サービスをインターネット接続以外に活用するサービスが登場し始めています。位置情報を利用したサービスです。今回はその一例として,位置に応じた情報提供サービスと,プレゼンス情報として利用する企業向けソリューションを紹介します。
図1 位置情報を利用した無線LANのコンテンツ・サービスの例 場所やユーザー個人の好みに応じた情報やサービスを提供する。 |
位置情報は,ユーザーが現在通信しているアクセス・ポイントから割り出します。アクセス・ポイントには,それぞれ固有のIDを割り当てています。つまりユーザーが通信するアクセス・ポイントが分かれば,ユーザーの位置は電波の届く数十メートルの範囲に限定されます。
携帯電話は数kmの範囲を一つの基地局でカバーすることもあります。そのため店舗単位で位置を特定するのには向いていません。またGPS(全地球測位システム)を利用する方法は無線LANを利用した場合よりも高い精度で位置を特定できますが,ビル内や地下街などGPSの電波が届かない場所では利用できません。GPSの電波が届きにくいオフィス街や繁華街では,無線LANアクセス・サービスの方が位置情報の取得に向いています。
場所に応じたコンテンツを配信する
位置情報の利用は,無線LANアクセス・サービスの登場時から考えられていました。しかしサービス開始当初はアクセス・ポイントの数が少なく,位置情報を利用するサービスを展開できる状況にはありませんでした。2003年末ころから,インフラ整備が完了してきたオフィス街などでサービスが登場してきています。
その一つが,NTTコミュニケーションズ(NTTコム)と三菱地所,NECの3社が共同で2004年7月に開始した「パーソナライズ情報配信トライアル」という実験サービスです。
東京・丸の内の実験エリア内に入ると,ログイン後に表示されるWebページで,「食事する」,「オシャレする」など6ジャンルのお勧め店舗の画像が表示されます。画像をクリックすると,各ジャンルのお勧め店舗情報10件が閲覧できます。
ジャンルや各ジャンルの店舗情報の並び順は,通信するアクセス・ポイントの位置や閲覧したページの履歴,利用時刻などで変化します。位置情報を使うことで,例えばログインしたアクセス・ポイントの近くにある店舗の情報が,トップに掲載されるようになっています。
しかも画像の表示が多いため,この点からも高速通信で定額料金な無線LANアクセス・サービスに適していると言えます。
企業向けでは業務の効率化に活用
図2 位置情報をプレゼンス情報として利用する企業向けサービス どのアクセス・ポイント下にいるのかをプレゼンス情報としてユーザーで共有する。VoIPによる音声通話やインスタント・メッセージングなどのユーザー間コミュニケーション手段も提供する。端末にはPDA(携帯情報端末)またはパソコンを利用する。 |
将来はIP電話を組み合わせて,目的地に最も近い社員にIP電話で自動的にコールするサービスも考えられます。
本格利用にはさらなるインフラ整備が必要
無線LANは,様々なエレクトロニクス機器への搭載が始まっています。2004年12月に発売となった任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」,ソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション・ポータブル(PSP)」は,無線LAN機能搭載です。将来はカーナビなどに搭載される可能性もあります。
携帯ゲーム機に位置情報サービスを応用すれば,近くにいるユーザー同士でグループを作って遊べるような新しいゲームが登場すると予想されます。カーナビなどに応用すれば,混雑情報や経路案内などの道路交通情報,駐車場や飲食店の位置などの周辺案内が受けられます。
ただしこうした利用には,さらなるインフラ整備が必須です。飲食店以外の店舗へのアクセス・ポイントの設置や屋外エリアの拡大を,一部の通信事業者が検討しています。