IP電話サービスの多くは「050」で始まる番号で発着信できますが,最近まで無線LANを利用したサービスでは050番号を使えませんでした。しかし2004年7月,新たな仕様書が策定され,無線LANを使ったIP電話サービスでも050番号を利用できる環境が整いました。

写真1 無線LAN機能を搭載したIP電話機 日立電線の「WIP-5000」。重さ,サイズとも携帯電話並み。
図1 無線LANを利用したIP電話に050番号を割り当て 2004年7月に情報通信技術委員会(TTC)が通話品質評価時の留意事項を示した。
表1 TS-1010(無線LANを用いたIP電話の通話品質評価における留意事項)の概略 IP電話サービスに050番号を割り当てる基準を示すJJ-201.01(通話品質評価方法)を補完するため,2004年7月に決められた。
 最近,無線LANを搭載したIP電話機(無線IP電話機)を多く見かけるようになってきました(写真1[拡大表示])。こうした端末は,アクセス・ポイントの電波が届く範囲で,携帯電話やPHSと同様の使い勝手でVoIPによる音声通信が可能です。しかし最近まで,通信事業者が無線IP電話機に電話番号を割り当てるための基準がありませんでした。電話番号が割り当てられないと,IP-PBXでいったん着信するなど特別な手段を使わない限り,一般加入電話や携帯電話からの着信ができません。そのため,LANなどのIP網でつながる端末との通話が主な利用形態でした。

 2004年7月,無線LANを用いたIP電話サービス(無線IP電話サービス)で「050」で始まる電話番号が利用できる環境が整いました。無線IP電話サービスに050番号を割り当てる基準が明らかになったためです。これまでの基準は有線通信を前提としており,050番号はADSL(asymmetric digital subscriber line)やFTTH(fiber to the home)などを利用するIP電話サービスでしか使えませんでした(図1[拡大表示])。

050番号の割り当て基準は総務省が判断

 無線IP電話機に050番号を割り当てると,無線LANアクセス・サービスなどを経由して050番号による発着信が可能になります。現在はまだそうした商用サービスはありませんが,2005年中には登場するとみられています。

 IP電話サービスで050番号を利用するには,総務省が規定した通話品質の条件をクリアしなければなりません。通話品質を評価するための方法は,電気通信関連を対象とした国内の標準化団体である情報通信技術委員会(TTC)が定めています。実際,IP電話サービスに050番号を割り当てるための通話品質評価方法は,2002年9月に「TS-1001」という仕様書の形でTTCがまとめました。さらに厳密性や相互接続の観点から補強・拡張したTTC標準「JJ-201.01」を2003年4月に制定。現在では,JJ-201.01に基づいて050番号を割り当てるための通話品質評価を行っています。

 JJ-201.01は,“決められた2点間の通話品質を評価する方法”を定めたものであり,本来は有線か無線という違いには依存しないはずです。しかし無線LANを利用した場合,電波の減衰による通信速度の低下や音声以外のトラフィックによる影響を受けやすいといった無線独特の音質劣化の要因があります。こうした通話品質評価時に気を付けるべき事項がJJ-201.01では不明確であったため,無線IP電話サービスへの番号割り当ては見送られてきました。

 2004年春,無線IP電話を使ったサービスでの通話品質評価方法を決めるため,TTCが検討を開始しました。その結果,2004年7月に仕様書「TS-1010」がまとめられました。TS-1010では,二つの「定量的に示すべき条件」と,「サービス仕様により考慮が必要な条件」を定めています(表1[拡大表示])。

無線固有の条件を考慮して通話品質評価

 「定量的に示すべき条件」の一つは,評価時のIP電話の利用可能エリアを明確にすることです。TS-1010では,端末の受信最小レベルなどの数値で示すことが望ましいとしています。もう一つは,評価時のエリア内で端末が十分な帯域を確保するための条件です。まず無線IP電話機の最大同時接続数を示す必要があります。Web閲覧やメール送受信などと共用する場合は,こうしたIP電話以外のデータの最大トラフィック量(背景トラフィック)も示さなければなりません。これら二つの定量的に示すべき条件については,JJ-201.01で決めた通話品質評価条件を満たすための「妥当である根拠」を提示する必要があります。

 「サービス仕様により考慮が必要な条件」とは,一つはユーザーが無線IP電話機を持ち歩いて通話する場合に発生するハンドオーバーローミングの有無などです。また盗聴防止の目的で無線区間を暗号化すると,パケットにオーバーヘッドが生じます。そのためセキュリティ対策の有無も通話品質評価時に注意することが必要です。こうした定量化できない条件を考慮しながら評価することになるため,TS-1010では「実際のサービス提供時の環境に従った評価の実施が望ましい」としています。