飲食店やホテルなどで無線LANによる高速インターネット接続を提供する「無線LANアクセス・サービス」が,年々ユーザーを増やしています。以前は探すのが大変だったサービス・エリアもかなり拡大してきました。ローミングの利用も増えつつあります。

 外出先でも,無線LANによる数Mビット/秒の高速なインターネット接続を実現する「無線LANアクセス・サービス」が広がっています。これは,サービス提供者が無線LANのアクセス・ポイントを飲食店,ホテルなどの公衆スペースに設置し,ADSL(asymmetric digital subscriber line)や光ファイバなどの高速回線でインターネット接続するものです。

 サービス・エリアは携帯電話などとは異なり,店舗などの“スポット”に限られます。携帯電話だと電波の到達距離が数kmもありますが,無線LANでは100m程度しか飛ばないからです。

利用する機器や料金メニューは自由に選べる

 無線LANアクセス・サービスは,標準規格のIEEE 802.11bを用いて提供されるケースがほとんどです。最近は,IEEE 802.11aや11gを用いたさらに高速なサービスも登場し始めました。どのサービスでも,専用の機器をユーザーが用意する必要はありません。

 開設には事業免許が必要なく,誰でもサービスを提供可能です。また無線LANは世界的に標準化された技術なので,安価で豊富な機器をユーザーが自由に選んで利用できます。

 料金メニューも選択可能です。NTTコミュニケーションズの「ホットスポット」を例に取れば,定額制の使い放題が月額1680円,プリペイド型の1日使い放題が500円,従量課金制で1分当たり8.4円――と3種類あります。このほか無料で使える「フリー・スポット」や,PHSデータ通信と無線LANアクセス・サービスを組み合わせた形態なども存在します。

図1 無線LANアクセス・サービスでの認証の仕組み 認証時の通信は,SSL(secure sockets layer)で暗号化してセキュリティを確保する。

サービス契約の有無をユーザー認証で判断

 有料サービスの場合,インターネット接続の前に契約ユーザーかどうかの認証が必要です。この点がオフィスの無線LANとは異なります。その流れを以下で説明します(図1[拡大表示])。

 サービス・エリアでWebブラウザを起動してインターネットに接続しようとすると,サービス事業者のデータ・センターにある制御装置につながります。自動的に認証サーバーに転送され,ユーザーのパソコンには認証画面が表示されます。ユーザーはID/パスワードを入力。送信されたID/パスワードが正しければ,認証サーバーはインターネット接続を許可するよう制御装置に指示します。間違っていれば,認証画面を再度表示するという手順です。

 なおサービス事業者によっては,接続用のソフトウエアをユーザ端末にインストールして認証する場合もあります。

海外でもサービスが使える「ローミング」

 1台のアクセス・ポイントがカバーするエリアは狭いため,1事業者だけで広いエリアをカバーするのはコスト的にも困難です。そのためサービス事業者は,互いのサービスを使えるようにする「ローミング」の契約を事業者間で結びます。無線LANアクセス・サービスを運営しないプロバイダなども,ローミングを利用することで無線LANサービスの提供が可能になります。海外でのサービス提供も,ローミングの仕組みを使えば可能です。

図2 他事業者のサービスも使えるようにする「ローミング」 ユーザーの認証データを事業者間でやり取りして認証する。
 ここでは事業者Aと契約しているユーザーαが海外の事業者Bのサービスを使う場合について,ローミングの仕組みを説明します(図2[拡大表示])。

 ユーザーαは,海外の空港など事業者Bのサービス・エリア内で,事業者Aのサービスで利用しているID/パスワードにより認証要求します。事業者Bの認証サーバーは,ID/パスワードから事業者Aのユーザーであると判断。事業者Aの認証サーバーに認証要求を送信します。事業者Aの認証サーバーがID/パスワードを照合し,正しければ認証許可を事業者Bの認証サーバーに返信。返信を受けた事業者Bは,ユーザーαのインターネット接続を許可します。

 なお事業者間でやり取りする際,認証サーバーの仕様の違いを吸収する「クリアリング装置」を経由することもあります。海外の事業者のユーザーが日本を訪問する場合も,同様の方法で日本でのサービスを受けられます。

 端末としては,IEEE 802.11bに準拠したノート・パソコンやPCカードならば日本でも海外でも使えます。IEEE 802.11bは,世界中で同じ周波数(2.4GHz帯)やチャネルを利用する規格だからです。