従来PBXやボタン電話で運用していたシステムをIP電話に入れ替える。しかしIP電話はまだ発展途上。国産PBXやボタン電話などに比べると機能面の不足が心配される。また,「大代表用」電話機など台数は少なくとも特殊な用途を持つ電話機もある。単純なリプレースでは混乱を招く。

 実績豊富な国産のPBX(構内交換機)やボタン電話を利用する限り,企業の電話に対する一般的なニーズは十分カバーできる。しかし,ボタン電話などで当然のように利用していた機能がIP電話でもサポートされているとは限らない。時には,何らかの代替手段を用意することも必用だ。

 また,大代表の中継台や役員秘書用電話など,台数は少ないものの特殊な用途の電話機も企業内には入り込んでおり,単純な利用者アンケートだけではその存在を見落としてしまう。導入前には念入りなヒアリングが欠かせない。なお,事例の取材にはオムロンフィールドエンジニアリングの協力を得た。

「ボタン電話」の機能が実現不可
電話運用ルールを見直し

ボタン電話は各入線に個別のボタンを割り当てて利用する。しかし,IP電話機ではボタン数が少ないため,ボタン電話の運用ルールをそのまま引き継げない。また,ボイスメールを導入すると従来の電話メモの伝達方法を見直さなければならない。

 機械設計やプラントの運用を行っているA社では,IP電話導入と同時に外線をダイヤルイン化し一人1台,1番号とした。それに併せて,IP電話システムには留守番電話機能となるボイスメール・システムも設定した。

図1 IP電話は一般的にボタンの数が少ない
A社では,事業所,部門,業務受託先のC社,広域内線などの入線を各ボタンに割り当てていた。ところが,IP電話機ではボタンの数が少なく,ボタン電話に割り付けていた入線すべてを割り付けられない。

IP電話機のボタンが足りない

 A社では多くの地方拠点でボタン電話を利用していた。ボタン電話では外線や広域内線などの入線を電話機のボタンに割り付ける。このボタンの数がトラブルの基だった。A社が導入したIP電話機は「機能ボタン」を六つしか備えていない。同社がボタン電話で利用していた入線数より少なかった。

 そのため,グループ代表番号については一つのボタンでの運用に変更した。グループ代表番号に着信した電話はグループに設定された電話機に対して着信を順番に着信させるように設定する。さらに広域内線網については発信特番を設定することで機能ボタンの利用を避けた(図1[拡大表示])。

 ところが拠点によってはこの方法で乗り切れなかった。A社では拠点によっては事業所代表のほか,部門ごとにも代表番号を設けていた。さらに,親会社のC社の名前での電話対応も求められていた。A社はC社から業務を受託しており,C社の顧客には連絡先としてA社事業所の電話番号を知らせてある。その番号にかかった電話にはA社の社員が「C社です」と応答する。

 1台の電話機で事業所代表,部門代表,C社代理応答と三つの番号を使い分けなければならない。各番号には複数の回線が割り当てられている。ダイヤルイン化後には,これに各人の直通番号も加わる。だが,全回線を対応させるだけの数のボタンは無い。

 むろん,IP電話機であっても十分な数のボタンがあれば,入線を各ボタンに直接対応でき,ボタン電話と同じ運用ができる。しかし,ボタン数の多い電話機を用意していないメーカーもある。用意していたとしても高価だ。