森 浩徳氏 日本ヒューレット・パッカード コンサルティング統括本部 テクノロジーソリューション本部 ネットワークソリューション部 部長
大久保 敦氏 日本ヒューレット・パッカード システム統括本部 ネットワークシステム本部 西日本ネットワークシステム部
再接続にダイナミックDNSが底力
ところが,2,3日もすると「つながらない」という電話が,開発委託先から相次ぐようになった。ルーターのインタフェース情報を調べてみると,グローバルIPアドレスが初期設定時とは異なっていることが分かった。実は,ADSLによるインターネット接続は常時接続とはいえ,網側の都合でPPPoEセッションが切れることがある。動的IPアドレスを利用していると,再接続時には以前とは異なるIPアドレスが割り当てられてしまうのだ。
急場をしのぐだけなら,IPアドレスが変更されるたびに委託先に電話やメールでIPアドレスを通知すればいい。だが,これではあまりに場当たり的で,煩わしい。
頭を抱えたA社だったが,たまたま委託先の中の1社から,ダイナミックDNS(DDNS)サービスの存在を聞いた。IPアドレスが不意に変更されても,例えば「A-company.ddns-domain.com」といった固定的なドメイン名でA社のルーターを指定できるサービスである。これを使えば,運用負荷を大きく軽減できる。
DDNSサービスの多くは,提供事業者が用意したドメイン名のサブドメインとして自社のドメインを登録する形をとる。つまり,「任意のサブドメイン.ドメイン.com」などの格好だ。ユーザーが希望するドメインを取得代行してくれるサービスもあるが,大半は有料である。
A社は一般向けに情報を公開するわけではないので,無料のサービスを選び,提供事業者のWebページから利用登録をした。A社のルーターはDDNSサーバーへIPアドレスを自動的に登録する機能を持っていたため,IPアドレスが変わるたびに登録内容を自動更新できる。
登録したはずのIPアドレスが消失
図1 固定アドレスを取得せずにダイナミックDNSサービスを利用したA社のルーターは突然,提携先からアクセスできなくなった ダイナミックDNSに対して一定期間,A社のルーターから新規のIPアドレスを登録する要求がなかったため,登録が削除されたことが原因。A社は,IPアドレス変更時だけでなく,3時間ごとに登録を繰り返すことで,問題を解決した。 |
DDNS事業者のWebサイトを調べたところ,「一定期間アクセスがないと登録を削除する」という記述があった。しかし,A社の共同開発用サーバーへのアクセスは複数の開発委託先から1日に何回もあったはず。A社は原因究明に行き詰まってしまった。
仕方なく有料サービスに切り替えようと考え始めたころ,A社はあることに気づいた。「一定期間アクセスがない」というのは,DDNSに対して外部からIPアドレスを問い合わせるアクセスがないという意味ではない。DDNSに新規IPアドレスを登録するためのアクセスがないことだった。
A社はルーターの設定を変え,IPアドレスの変更時だけでなく3時間ごとに登録を繰り返すようにした。その結果,DDNSからドメイン名が消えることはなくなり,共同開発インフラは快適に利用できている。