大久保 敦氏 日本ヒューレット・パッカード システム統括本部 ネットワークシステム本部 西日本ネットワークシステム部
坪野 祐弘氏 日本ヒューレット・パッカード コンサルティング統括本部 テクノロジーソリューション本部 ネットワークソリューション部 第一グループ

融通が利かない専用線
柔軟な帯域変更を目指す

臨時の拠点にWAN回線を引く場合,納期の短さや価格・帯域から見て,ADSLは最適な回線の一つ。ユーザーを小さなグループ(セル)に分けて,各セルごとにADSL回線を敷設すれば,少ない手間でネットワークを増強できる。さらに,対称型の通信速度が必要な用途では,FTTH(fiber to the home)の導入も検討に値する。

 システム・インテグレータのB社は,受注したプロジェクトごとに,顧客企業の拠点にスタッフの作業スペースを確保し,臨時のWAN回線を導入している。スタッフ数は設計段階では少なくても,ピーク時の構築段階になると著しく増える。従来は,ピーク時のスタッフ陣容を想定して,あらかじめ適切な速度の専用線を契約していた。

 また本社から離れた顧客の拠点は,専用線タイプのインターネット接続サービスを介してインターネットVPNで本社と結んだ。

図2 B社はユーザーを「セル化」して複数のADSL回線で収容
以前は作業拠点に専用線を導入し,全員で共有していた。しかしネットワーク構築まで時間がかかる上,専用線ではスタッフ数のピーク時に帯域が不足する事態が発生。そこでユーザー端末を「セル」に分割し,それぞれにADSL回線を割り当て「セル・デザイン」に変更。回線の増強,削減が容易で,構築期間も短縮できた。

専用線では帯域が不足していた

 ところがプロジェクトの大規模化が進み,ピーク時のスタッフ数が100人を超える案件も目立ってきた。グループウエアで要求されるトラフィックも増えており,6Mビット/秒の専用線接続でさえ帯域が不足する。

 そこでB社は,客先の拠点に設けるWANの構築手法をADSLとインターネットVPNに一新することにした。

 従来の手法は,あらかじめピークの端末数やトラフィックを想定してWANを構築し,全員で共有するもの(「ホール・デザイン」と呼ぶ)。耐障害性を高めるため2回線を契約し,インターネットVPNの場合はマルチホーミングで回線間の負荷を分散する。

8人単位でADSL回線を共有

 一方,新しい手法は,端末(ユーザー)を少人数のグループに分けて,各グループにADSL回線を割り当てる。これを「セル・デザイン」と呼ぶ。A社は,回線の実効速度などを基に,ADSL回線1本とブロードバンド・ルーター(BBR)1台,ユーザー端末8台で一つのセルを構成した(図2[拡大表示])。

 耐障害性にも配慮した。ADSL回線のプロバイダは2社を選択。半数のセルは「プロバイダA」,残りのセルは「プロバイダB」の回線で収容する。セルを収容するADSL回線が断線した場合は,手動でハブから別のBBRへと配線をつなぎ替える。

<次回へ続く>