真鍋 浩氏 日本IBM ネットワーク・サービス事業部 ソリューション推進・マーケティング

AP1台に端末20台以下の接続のはずが

 A社のオフィスはフロア内に壁や高い間仕切りがないため,見通しが利く範囲に100人を超える社員が働いている。そこで各フロアとも,6台のアクセス・ポイント(AP)をほぼ均等な間隔で設置した。

 1台当たりの接続端末数を20台以下に抑えて,スループットの低下を防ぐためである。また,複数のAPを置くことでネットワークの冗長度が上がり,障害に強くなる効果も見込める。

 IEEE802.11bの無線LANの転送速度は最大11Mビット/秒だが,フレーム・ヘッダーやパケット暗号化などのオーバーヘッドを除いた実際のスループットは4M~6Mビット/秒程度である。同じAPに接続する全端末で,この伝送容量を共有する。A社のネットワーク管理者は,最低でも端末1台当たりのスループットを200kビット/秒程度は確保できると考えていた。

 しかし,運用を始めると一部の利用者から,「ネットワークが遅い」という苦情が寄せられた。スループットを調べてみると,利用するAPや場所によっては,通信速度が数十kビット/秒程度しか出ていない。

 原因究明に当たったシステム担当部門は,(1)特定のAPの間で電波干渉が起こり,通信速度の劣化を招いている,(2)オフィスの天井やスチール棚などによる電波の直接反射や乱反射が影響し,端末が必ずしも近くのAPに接続していない――という結論に達した。特に(2)の原因で,APによって接続端末数が大きく偏っていた。

 接続先の偏りは,端末に割り振るSSIDの設定で,接続するAPを固定すれば解消できる。しかし,APをまたがるローミング機能が働かなくなり,端末を持ち歩けない不便が生じる。

図1 A社は自動ロード・バランス機能の付いた製品でスループットを改善
通信場所などによって無線LANのスループットの偏りに悩んだA社は,インテグレータの実地調査に基づいて,アクセス・ポイントの電波出力を調整。さらに自動ロード・バランス機能を備えた無線LAN製品を導入した。信号強度やビット誤り率などを基に端末の接続先を自動的に切り替える機能が有効に働き,全体のスループットを改善できた。

電波の出力や端末割り振りを調整

 そこでA社は,外部のインテグレータに依頼してAPの電波状況を調査し,電波干渉が起こらないように出力を調整したほか,「自動ロード・バランス機能」を備えたAPを導入する対策を施した(図1[拡大表示])。自動ロード・バランス機能は,複数あるAPが互いに連携して,端末台数や信号強度,ビット誤り率などを基に,各端末の接続先を切り替えることで,AP間の通信負荷を平均化する。この結果,各端末のスループットの偏りもおおむね解消される。

 実際に運用を開始すると,各利用者の場所によらず,端末の通信スループットが以前より平均化できていることが確認できた。ユーザーがノート・パソコンを持ち歩いても,ロード・バランス機能が働く。社員から寄せられた苦情は解決できた。

フロアをまたがる電波干渉にも注意

 日本では周波数割り当て上,802.11bの無線LANで全く電波干渉を起こさず確保できる物理チャネルは最大4チャネル。このため,設置するAPが4台程度ならば,利用チャネルの設定で電波干渉の問題を回避できる。

 しかし,複数のフロアで無線LANを使っていると,1フロア当たりのAP数が少なくても安心できない。窓越しなど上下階から漏れ込む電波で干渉することがあるからだ。この場合は,手動による電波出力の調整が有効である。

 ただし,家庭向けはおろか企業向けでも出力調整機能がない製品もある。ロード・バランス機能を含めて,製品選択には注意が必要である。