茂手木 昌洋 富士通 システムサポート本部ネットワークサポート統括部ネットワークシステムサポート部

図3 パス・コストの設定で常時使うパスを指定したB社のネットワーク構成
 B社はレイヤー2スイッチ間に複数の経路を用意することで信頼性を高めている。デフォルトの設定では部門内の通信の一部が全社共通のルート・ブリッジを経由してしまう。このため,B社はバックアップ経路のパス・コストを高く設定して経路を指定した。

STPで経路を2重化
小さなミスが全体に波及

STPは,通信経路の冗長化に使える。通信経路は,ルート・ブリッジからの論理的な距離を示す値である「パス・コスト」で決まる。パス・コストを指定すれば,優先する通信経路を設定できる。

 スパニング・ツリー機能は,レイヤー2スイッチ(L2スイッチ)の多くが備える。データリンク層のルーティング・プロトコルであるスパニング・ツリー・プロトコル(STP)を使って,バックアップ経路を確保したり,誤接続によるネットワーク停止を防ぐ。

 流通業のB社は,部門を単位とした階層型のLANを構築した。部門内のトラフィックは,部門バックボーン・スイッチにいったん集約。全社サーバーや社外へのトラフィックは,部門バックボーン・スイッチから全社バックボーン・スイッチに1000BASE-Tを使って送るようにしていた。

 B社のLANで2重化していたのは,全社バックボーン・スイッチだけ。それ以外で障害が発生すると,関係する部分の通信が停止してしまう。特に,全社バックボーン・スイッチに収容する1000BASE-Tや部門バックボーン・スイッチで障害が発生すると,部門全体の通信に影響が及ぶ。

 そこでB社はSTPを使い,全社バックボーン・スイッチと部門LANの間の通信経路を2重化した。部門バックボーン・スイッチを経由しないバックアップ経路を100BASE-Tで用意しておくことにしたのである。

経路は単純な足し算で設定できる

 STPの通信経路は,ルート・ブリッジからの論理的な距離を意味するパス・コストで決まる。まずルート・ブリッジは,すべてのポートからパス・コストの値が「0」の構成BPDUを送信する。

 構成BPDUを受信したL2スイッチは,受信ポートのパス・コストを加算して次のL2スイッチに構成BPDUを転送する。こうやって最もパス・コストが低い経路が常時使うスパニング・ツリーに決定される。L2スイッチは,常時使わない経路でフレームが到着するポートをブロッキング・ポートとして扱い,到着フレームを廃棄する。

 B社の使用していたL2スイッチのパス・コストのデフォルト値は,1000BASE-Tポートが「4」,100BASE-Tポートが「10」だった。全社バックボーンとバックアップ用100BASE-TでつながるL2スイッチまでのパス・コストは,バックアップ経路を利用した場合「10」,部門バックボーン・スイッチ経由で「14」になる。そのままでは,部門サーバーとの通信も,全社バックボーン経由になってしまう。

 B社は,L2スイッチのパス・コストを設定し直した。バックアップ用の100BASE-Tを収容するポートのパス・コストを100に設定したのだ(図3[拡大表示])。こうすれば,1000BASE-T経由のパスは,通過するL2スイッチは1台多いが,パス・コストは小さくなる。平常時はすべての通信がバックボーン・スイッチを経由する。