茂手木 昌洋 富士通 システムサポート本部ネットワークサポート統括部ネットワークシステムサポート部

図2 A社はルート・ブリッジの選択に失敗
 スパニング・ツリーは,デフォルトではMACアドレスの一番小さなレイヤー2スイッチ(L2スイッチ)がルート・ブリッジになり,ネットワーク構成を管理する。A社では夜間に電源を切るL2スイッチをルート・ブリッジにしてしまったため,電源のオフ/オンのタイミングで一時的に通信ができなくなってしまった。

STPで接続ミスによるトラブルを防止

 トラブルは単純なケーブルの接続ミスが原因だったが,復旧には約3時間を要した。A社はトラブルの未然防止のために,スパニング・ツリー・プロトコル(STP)を使うことを決断した。

 STPは,IEEE802.1Dで規定された機能。伝送路がループとなるような接続であっても,ルート・ブリッジを頂点にした論理的なツリー構造を構成し,ツリー状の経路に従ってフレームを転送する。このことでブロードキャスト・ストームを防止する。

1日2回,朝夕に1分間不安定に

 スパニング・ツリーを導入した結果,誤接続によるトラブルは心配なくなった。しかし,導入後に新たなトラブルが発生した。1日2回,朝8時前と夕方6時の後に,1分間程度ずつ通信が不安定になってしまうのだ。特にファイル転送など,連続した通信はその時間帯で必ずいったん切れてしまう。

 原因は,STPの経路決定の主導権を握るルート・ブリッジの選択にあった(図2[拡大表示])。STPを有効にすると,各L2スイッチは構成BPDU(configuration bridge protocol data unit)フレームを送信する。このとき構成BPDUのブリッジ識別子の値が最小のスイッチがルート・ブリッジになる。

 ブリッジ識別子はユーザーが設定できるブリッジ・プライオリティと,MACアドレスで構成されている。A社はブリッジ・プライオリティを指定しなかったため,たまたま MACアドレス値が最も小さかった製造部門のL2スイッチがルート・ブリッジになった。

 ルート・ブリッジが決まった後は,ルート・ブリッジだけが構成BPDUを定期的に送信し,ほかのスイッチは構成BPDUを受信・中継して通信経路が正常なことを確認する。

プライオリティの未設定で経路が変更

 ところが製造部門は,L2スイッチの電源を夜間に切断していた。その電源オフ/オンのタイミングでトポロジの変更が発生。ルート・ブリッジの選出と新しい経路の決定をしていた。STPのトポロジ・チェンジは,1分程度かかる。この間LAN上で通信はできない。A社は,どのL2スイッチがルート・ブリッジとなるかを考慮して設定しておく必要があったのだ。

 ルート・ブリッジは,LANの中核に位置し,安定動作するバックボーン・スイッチに設定しておくことが望ましい。A社はブリッジ・プライオリティの値をほかのL2スイッチより小さくすることで,バックボーン・スイッチをルート・ブリッジに指定した。