茂手木 昌洋 富士通 システムサポート本部ネットワークサポート統括部ネットワークシステムサポート部

スイッチング・ハブやレイヤー3スイッチなどのLANスイッチを導入したスイッチ・ネットワークには,リピータ・ハブだけを使った簡単な構成のLANでは生じにくい様々なトラブルが潜む。今号から4回にわたって,筆者が実際に対応してきたトラブル事例から典型的なものをいくつか選び,その解決策とともに紹介する。

 スイッチ・ネットワークのトラブルは,機器障害だけでなく,スイッチング機能やケーブルが関係してくる場合が多い。特に,トラブルが起こる可能性が高く,設定時などに注意が必要な機能や作業は次の4項目に大別できる。(1)オート・ネゴシエーション機能,(2)LAN配線の集約や増設,(3)スパニング・ツリー機能,(4)バーチャルLAN関連機能――である。

 今回は,(1)のオート・ネゴシエーション機能の設定時に生じやすいトラブルをいくつか紹介する。

まずケーブルとポートを疑う それぞれの組み合わせを確認

図1 A社は,10M/100MイーサネットのLANを1G/100Mイーサネットの集中ルーティング型スイッチLANに拡張したが,一部の端末ではスループットが低下してしまった
 この構成では,サーバー-クライアント間のパケット転送はハードウエアだけで処理するため,中継機器(LANスイッチ)などに障害が起こらない限り,スループットは低下しにくい。スループットが出ていない端末は一部であることを考えると,サーバーやバックボーン・スイッチには問題がないと考えられる。
まず注意したいのは,LANスイッチやパソコン向けLANカードが装備するLANポートの種類と,より対線ケーブルの種類との組み合わせである。これが不適切だと通信できない状況に陥る。

 A社は,スループットの向上を狙って,10M/100Mイーサネットによるネットワークを1G/100Mイーサネットに変更した。ネットワーク・トラフィックの増大に伴い,サーバーとクライアント間の実効データ転送速度(スループット)が低下してきたからだ。

 従来は,リピータ・ハブを使ってクライアントを束ねた簡単なネットワーク構成だった。より対線ケーブルを使って,ハブとクライアントの間は10BASE-Tで,ハブとサーバーの間は100BASE-TXで接続していた。

 これを,レイヤー3スイッチをバックボーン・スイッチとして中心に置き,クライアントから見てサーバーをバックボーン・スイッチの背後に,スイッチング・ハブをバックボーン・スイッチの手前に配置する集中ルーティング型ネットワークにした(図1[拡大表示])。クライアントとスイッチング・ハブの間は100BASE-TXで,それ以外の機器間は1000BASE-Tで接続した。

一部端末だけスループットが出ない

 変更後のA社のネットワークでは,サーバーとクライアントの間のパケット転送は,スイッチング技術を使ってハードウエア処理する。このため,ネットワークにおける中継性能が問題となってスループットが低下することはほとんど考えられない。実際に,サーバーからファイル転送を試みたが,特に問題は見つからなかった。

 ところが,一部のクライアントでは,ファイル転送時にスループットが10Mイーサネットだったころより遅くなる現象が発生した。その他の端末では問題がないことから判断すると,サーバーやバックボーン・スイッチに問題があるとは考えにくい。

 A社は,LANスイッチやクライアントのLANポートとより対線ケーブルの組み合わせに問題があるかもしれないと疑ってみた。