一丸 智司 エヌ・エス・アイ 専務 ネットワーク・コンサルタント

帯域拡張を見込んで見積もる

IP-VPNサービスを使って社内ネットを構築すれば,急増するトラフィックを低コストで吸収できます。専用線でネットワークを構築していた企業ユーザーが,以前より低いランニング・コストで8倍の帯域を得ることも可能です。

図4 ネットワーク構成例と料金試算例
全国12拠点を結ぶネットワークの月間の回線料金を,専用線サービス(高速ディジタル専用線とATM専用線)とIP-VPNサービスのそれぞれで試算した。IP-VPNを利用すれば,高速ディジタル専用線(合計5.6Mビット/秒)よりも安い費用負担で8倍以上(合計48Mビット/秒)の帯域が得られる。現行がATM専用線(合計9Mビット/秒)でも,5倍以上の帯域が手に入る。bpsはビット/秒。
 IP-VPNサービスの料金水準を,専用線サービスと比較しながら明らかにしてみましょう。図4[拡大表示]に示したネットワーク構成例を基に試算してみました。例えば,現在,高速ディジタル専用線で全国の12拠点を256k~1.5Mビット/秒の回線を使って結ぶ社内ネットワークを構築してあるとします。合計の帯域は5.6Mビット/秒です。このネットワークをATM専用線に置き換えた時の料金と,IP-VPNサービスに置き換えた時の料金を計算しました。専用線サービスはNTTコム,IP-VPNサービスは日本テレコムの料金表を基にしています。

 利用可能な速度品目が限られることなどから,ATM専用線の合計帯域は9Mビット/秒,IP-VPNサービスは24Mビット/秒としました。IP-VPNサービスについては,2倍の48Mビット/秒と6倍の144Mビット/秒の料金も試算しました。現在,企業のネットワーク・トラフィックは急激な勢いで増えています。見積もりをとっておけば,将来,どのぐらいのランニング・コストで対応できるかを把握できます。

 計算結果は図4に示した通りです。例えばこれまでNTTコムの高速ディジタル専用線で合計帯域5.6Mビット/秒のネットワークを構築してあったユーザーが,日本テレコムのSOLTERIAに移行すれば,月額利用料を140万円以上削減した上に,8倍以上の48Mビット/秒の帯域を確保できることが分かります。

表2 IP-VPNサービスの料金比較図3に示したネットワークの月額利用料を試算した。将来,トラフィックの増加によりネットワークを増強しなければならなくなると仮定して,様々な帯域の料金を掲載した。「コスト・パフォーマンス」はNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の高速ディジタル専用線を「1」として比較した数値である。例えば,高速ディジタル専用線と同じ料金で,2倍の帯域が得られる場合,コスト・パフォーマンスは「2」となる。料金が半額で帯域が2倍の場合は,「2(料金)×2(帯域)」でコスト・パフォーマンスは「4」となる。
 日本テレコム以外のIP-VPNサービスも含めて,表2[拡大表示]に試算結果をまとめました。表中の「コスト・パフォーマンス」の考え方は次の通りです。まず,高速ディジタル専用線のコスト・パフォーマンスを「1」とします。これに対して,例えば日本テレコムのSOLTERIAの合計帯域24Mビット/秒は「7.5」です。高速ディジタル専用線とSOLTERIAを比較すると,同じコスト(例えば1円)でSOLTERIAの方が7.5倍の帯域を得られるという意味です。

 劇的にコスト・パフォーマンスが上がることがIP-VPNの特徴です。帯域を大幅に増やした場合に,その効果が顕著に出ます。これだけの拡張性があれば,増加傾向にあるIPトラフィックにも低コストで対応できます。

 ただし,IP-VPNサービスにも課題はあります。その一つが内線電話網です。IP-VPNサービスを使って音声通話を実現する→VoIP技術の実績がまだ少ないため,現在のところは二の足を踏むユーザーが多いようです。通話テストを十分に繰り返してから導入するか,電話のVPNサービスなど別の方法を検討する必要があるでしょう。