一丸 智司 エヌ・エス・アイ 専務 ネットワーク・コンサルタント

機能に差がある各社のサービス

事業者各社のIP-VPNサービスには,ルーティング方法や利用できるIPアドレスなどの違いがあります。ユーザーの自由度が最も高いのは,レイヤー2スイッチを採用するCWCの広域LANプラットフォームサービスです。各社のユーザー・網インタフェースも異なります。インタフェースの違いは,ユーザー機器の価格に10倍もの差をもたらす可能性があります。

表1 主な通信事業者各社のIP-VPNサービスの概要
bpsはビット/秒。
 各社のIP-VPNサービスの仕様は,ルーティングの方法や遅延時間の保証の有無など,いくつかの点で異なります(表1[拡大表示])。ここでは,特に重要なプロトコルとインタフェースの違いについて見てみましょう(図3[拡大表示])。

自由度が高いレイヤー2スイッチ・ネット

 プロトコルで特徴的なのがCWCの広域LANプラットフォームサービスです。バックボーンをレイヤー2スイッチで構成しているため,ネットワーク層プロトコルに制約がなく,IPXAppleTalkなどIP以外のプロトコルも利用できます。一方,その他の事業者は,バックボーンをIPルーターで構成しているため,IP専用のサービスとなります。

図3 各通信事業者のサービス・スペックの違い
各IP-VPNサービスについて,ユーザー・網インタフェースと通信できるプロトコルを示した。
 レイヤー2スイッチを使うCWCの場合,OSPFEIGRPといったルーティング・プロトコルもユーザー側で自由に設定できます。IPアドレスも任意のグローバル・アドレスプライベート・アドレスローカル・アドレスを利用できます。CWC以外のサービスは,ルーティング・プロトコルや利用できるIPアドレスの種類について,それぞれ制約があるため注意が必要です。

IP専用型サービスはルーティングに制約

 例えば,日本テレコムのSOLTERIAなど多くのサービスは,当初,スタティック・ルーティングしか提供しません。新しいサブネットを追加しようとしても,通信事業者がネットワーク内のルーターの設定を変更するまで数日かかります。サブネットの変更が頻繁な大規模ネットワークには不向きです。ダイナミック・ルーティングをサポートするNTTコムのArcstar21などを利用すると良いでしょう。

 また利用できるIPアドレスに制限があるサービスもあります。例えばPNJ-Cの高速IP接続サービスは,同社が割り当てるグローバル・アドレスしか使えません。

インタフェースの違いが機器コストに影響

 ユーザーに提供されるインタフェースもサービスによって異なります。LAN用のイーサネットと,BRIPRIATMといったWAN用インタフェースに大別できます。イーサネットで提供するのがCWCとPNJ-C。他の事業者はすべてWAN用インタフェースです。

 イーサネットとWANのインタフェースの違いは,アクセス回線に接続するルーターの価格に大きく影響します。イーサネット,BRI,PRIインタフェースのルーターは数十万円ですが,ATMインタフェースのルーターは数百万円に跳ね上がります。

 アクセス回線の速度が1.5Mビット/秒以下であれば,BRIやPRIを使う低料金のエコノミー専用線を利用できるため,WAN用インタフェースを提供する事業者でも問題ありません。しかし1.5Mビット/秒を超える場合は,月額利用料の安いATM専用線と導入コストの高いATM対応ルーターの組み合わせとなるので,注意が必要です。

 一方,CWCやPNJ-Cのサービスは,1.5Mビット/秒を超える高速アクセス回線に安価なイーサネット用ルーターを接続できます。