患者に関する情報を、紙のカルテではなく、コンピュータを使って電子的に記録したもののこと。データだけでなく、管理するシステム全体を電子カルテと呼ぶこともある。導入によって、病院全体の業務を把握しやすくしたり、医療の質を高めたりする効果が期待できる。

 記録する主なデータには、患者の病気の症状や検査結果、処方した薬の種類、データの変更履歴などがある。レントゲンの画像や添付する資料を含めて電子化するケースも少なくない。欧米でも電子カルテへの取り組みは進んでおり、EMR(Electronic Medical Records )、CPR(Computerized Patient Records)といった言葉を使う。

 電子的にデータを管理するので、紙のカルテに比べて、入力したデータを簡単に管理できる。情報も共有しやすい。医師や看護師が患者の情報を共有するだけでなく、各種検査の手配や、医事会計システムなどと連動させることもできる。一方で、履歴を残さずにデータを改変できるので、改ざんを防いだり、原本であることを保証したりする機能によるセキュリティ確保が必要になる。

 ネットワークを利用すれば、一つの病院の中だけでなく、複数の病院間で電子カルテを共有することも可能だ。そのための動きも活発である。

 厚生労働省は2003年8月に「標準的電子カルテ推進委員会」を設置して、電子カルテを共有するために必要な要件を検討してきた。同委員会は、今年5月に用語や病名コードの標準化を求める最終報告書を提出したところだ。電子カルテを交換するための規格としては、医療情報全般を扱うHL7と画像情報を扱うDICOMの二つが知られる。

 すでに、医療系システムの導入で実績のある富士通やNECをはじめとして、多くのベンダーが電子カルテのシステムを発売している。数年前までは、電子カルテを導入するだけで10億円を超すことも珍しくなかった。だが近年では、数百万円から導入できる電子カルテシステムも登場してきた。

 現時点の導入率は高いとは言えない。2003年12月に厚生労働省が発表した調査によれば、電子カルテの導入率は病院全体の1.2%、診療所全体の2.6%に過ぎなかった。安くなったとはいえ、多くの医療機関にとって、導入・運用コストの問題が依然大きいとみられる。電子カルテの導入コストについては、病院ではなく患者が負担すべきといった意見もあるが、結論は出ていない。ただし、この調査では電子カルテの導入予定があると回答した病院も全体の10.2%に達した。

 こうした実態を受けて、政府は電子カルテの普及促進を旗印としている。政府は2004年6月に発表した「e-Japan重点計画-2004」のなかで、2006年度までにベッド数が400以上の病院と、全診療所の6割以上で電子カルテを導入することを目標として掲げた。だが、この目標の実現は困難だという見方も強い。

(中村)

本記事は日経コンピュータ2005年5月30日号に掲載したものです。
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