7月23日午後4時35分に最大震度5強の地震が首都圏を襲った。この時、震度データを政府に伝達する東京都のシステムの能力不足が原因で、データの配信に時間がかかり、政府の危機管理のスタートまでに30分が経過。初動対策の遅れを招いた。

図●消防署で観測した震度5強というデータが、気象庁に届くまで20分以上かかった
 政府は、東京23区内で震度5強以上の地震が発生した場合、危機管理のために関係省庁の局長級からなる「緊急参集チーム」を、ただちに招集する。にもかかわらず、今回は地震発生から招集まで30分が経過してしまった。前提となる、東京都から気象庁への震度情報の提供が遅れたからである。

 東京都は、合計99台の地震計によって揺れを計測し震度を算出。気象庁のシステム仕様に合わせて震度データを変換し、気象庁に送信する([拡大表示])。このシステムに、震度情報を迅速に配信する能力が元々なかった。具体的には、震度算出とデータ変換を担当する、8年前に導入した「気象サーバー」と呼ぶサーバーの処理能力が不足していた。気象サーバーには、サン・マイクロシステムズ製Enterprise250を利用している。

 震度データの収集方法にも問題があった。今回の震度5強を記録した地震計は、東京都足立区の西新井消防署内のものだ。地震計は区市町村47カ所と消防署52カ所に設置してあるが、消防署からのデータは東京消防庁の地震計サーバーを経由するため、区市町村のデータより都への到着が遅れる。そのうえ、「地震発生時刻には、気象サーバーで他の気象データの変換処理を実行中だった」(東京都総務局総合防災部)。消防署データの変換処理は、気象データと区市町村データの処理終了を待って実行された。

 ただ、問題のあるシステムを都が放置していたのには理由がある。「緊急参集チーム招集のために、震度データを気象庁に迅速に配信する必要があるということを知らなかった」(総合防災部)のだ。

 東京23区内で震度5強の地震があった場合、緊急参集チームを招集すると決まったのは2003年11月。1年9カ月にわたり国の危機管理策が、連携すべき自治体に正しく伝わってなかった。

 都の問題は氷山の一角に過ぎない。東京23区以外の地域でも震度6弱以上の地震が起これば、国は緊急参集チームを招集することになっているが、都と同レベルのシステムを運用している自治体は少なくないとみられる。地震発生翌日の24日、総務省消防庁は全都道府県に対して、地震関連システムの再点検を要請している。

 地震対策は国民の命にかかわりかねない重要事である。実際に、今回の地震でも負傷者39人、火災4件、停電6039戸といった被害が起きている。危機管理体制を実効性のないままにしてきた、国や自治体の責任は重い。

 なお今回の問題に対して、東京都は「データ送信が遅れたことは重大な問題。気象サーバーとは別に、震度データを処理する専用サーバーを新たに設置して、能力向上を図りたい」としている。

(広岡 延隆)

本記事は日経コンピュータ2005年8月8日号に掲載したものです。
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