情報インフラの価格下落と規制緩和を背景に、ヤフーやライブドアといった異業種が銀行業になだれ込もうとしている。金融業界内の秩序も崩れ、金融機関は内外の“異端者”から挑戦を受けている。新しい条件での競争を生き抜くには、ITの使いこなしが欠かせない。

(大和田 尚孝、谷島 宣之、今井 俊之)

 銀行の勘定系システムが20億円、9カ月で構築可能――。あなたはこの事実をどう受け止めるだろうか。

 ライブドアが年内開業を目指して準備を進めている「西京ライブドア銀行」は、システム投資額、構築期間の両面で金融業界の常識を打ち破ろうとしている。ヤフーが来春に営業開始する銀行もシステム投資額は推定で70億円以下。5年ほど前に参入したネット銀行の約半額だ。情報インフラという銀行の参入障壁は限りなく低くなった。

 一方で、監督官庁や法律に庇護され参入は難しい、という金融業のイメージも過去のものになりつつある。金融庁は一般事業会社が銀行代理店を手掛けられるようにするため、銀行法改正を準備中。早ければ2006年度にも実現しそうだ。自動車ディーラやスーパーマーケットは、情報システムを用意すれば、金融商品を提供できる。

 異業種が金融ビジネスを手掛ければ、個人顧客に密着できるようになる。商品・サービスだけでなく決済サービスまで提供すれば、顧客の利便性は増す。製造業や流通・サービス業の商流や物流に、“金流”が融合するわけだ。

 IT活用の広がりによって、金融業界内の秩序も崩れ始めた。三井住友銀行が新しい審査システムを駆使して地銀の主戦場である中小企業向け融資に進出する、東京海上日動火災保険が生損保一体型商品の専用システムを開発して生命保険市場に切り込む、といった具合だ。金融機関は内外の“異端者”から挑戦を受けている。

 新しい条件での競争を生き抜くために、金融各社は情報システムを一気呵成に準備している。金融商品を素早く開発できる基盤を整備すべく、基幹システムを全面刷新する企業もあれば、パッケージ・ソフトで最低限必要な機能を用意し、他社に先んじようとする企業もある。金融業界の古い常識を疑う目を持てば、新しいビジネス・チャンスが見えてくる。