もうムダなお金は使わない――。濡れ雑巾を絞るように、ユーザー企業がITコストの一層の引き締めを進めている。コンペは当然、購買部門が最終交渉に立ち、さらなる値下げを迫る例も増えてきた。価格破壊の行き着く先は…。崩れゆくシステム価格の実態を追った。

(森側 真一、志度 昌宏)

 「もうITにムダなお金は払わない」――。ユーザー企業が情報システムのコスト削減姿勢を一層、強めている。取引慣行の見直しはもとより、開発内容の絞り込みや提案内容の比較・分析などにより、ITベンダーが提案した見積もり価格を濡れぞうきんを絞るがごとくギリギリと下げさせる。

 その動きは、ITベンダー各社の予想を大きく上回る。

 「価格の下落はものすごく激しい。率直に言って達成は無理だと思う」。この5月25日、経営方針説明会の壇上に立った富士通の黒川博昭社長はこう切り出し、自らが掲げた中期計画の達成が不可能なことを早々に認めざるを得なかった。2005年3月期に1700億円を見込んだ営業利益が1130億円に終わったからだ。中期計画では、07年3月期に営業利益3000億円を目指していた。

 04年3月期に富士通は、赤字プロジェクトの損失引当金として683億円を計上し、過去とは決別したはず。ところが、実際にはさらに400億円の損失を追加計上することになった。厳しい値下げ要求が続く中、甘い見積もりを続けたツケが回ってきている。

 6月23日付で相談役に就いた日本ユニシスの島田精一前社長も、5月13日の記者会見では“敗北宣言”に近い印象をぬぐい切れなかった。05年3月期が最終年だったRe-Enterprise計画が、売上高3089億円、営業利益104億円で幕を引いたためである。目標は、売上高3800億円、営業利益180億円だった。

 島田前社長も、その理由を「案件に対するユーザー企業の選別眼が、予想以上に厳しかった」ことに求める。Re-Enterprise計画では、大胆なリストラや構造改革に取り組んできた。しかし、目標達成は2年先送りせざるを得ず、その実現は籾井勝人新社長に委ねた。三井物産のCIO(最高情報責任者)出身の島田氏にしても、今のユーザー企業のコスト感覚を読み切れなかったことになる。

 システム価格の下落傾向は、ユーザー各社が情報システムの発注体制を強化しているだけに、今後ますます強くなりそうだ。