IT業界のあいまいな会計処理に対する本格的な議論が始まった。経済産業省が5月末、そのための研究会を発足させたほか、企業の会計基準を定める委員会もIT産業を検討対象に位置づけた。IT業界の会計に、厳しいメスが入ろうとしている。

図●経済産業省と企業会計基準委員会はIT産業の取引に透明性を求める
 経済産業省が設置したのは「情報サービスの財務・会計を巡る研究会」。金融庁下の企業会計審議会会長でもある加古宜士早稲田大学教授を会長に、遠藤紘一リコー専務らユーザー企業の代表と、棚橋康郎新日鉄ソリューションズ会長ら大手ITベンダーのトップが参加する。

 受注者(ITベンダー)だけでなく、発注者(ユーザー)、会計監査のそれぞれの観点から、あいまいなままに放置されてきたIT業界の取引実態の問題点を整理。その改善に向けた指針をまとめ、6月末にも公表したい考えだ。

 同研究会と並行して、日本の会計基準を策定している民間団体、企業会計基準委員会も5月から、IT業界の会計処理のあり方について検討を開始した。委員会は今後、研究会と互いの検討結果を交換。その上で、早ければ今秋にも会計基準そのものの見直しも視野に、IT業界の取引の透明性を高めるための施策を打ち出す。

 具体的には、監査時に取引が適正かどうかを明確に線引きするための、会計処理のルールを確立する。例えば、ソフト開発における売上計上時点に対し、複数の会計処理方法を選択できるようにした上で、それぞれの処理に必要な条件を定める。その条件が満たされているかどうかで取引の正当性を監査できるようにする。

 検討対象には、ITベンダーとユーザー間の取引のほか、ITベンダー自身の内部統制、下請け発注などITベンダー同士の取引、の3パターンを想定している。ITサービス会社個々の会計処理の透明化はもとより、ユーザー企業の発注形態や検収基準の明確化、下請け構造の見直しなども迫られる([拡大表示])。

 これまでもIT業界の会計処理や商慣行の適正化に向けては、種々の取り組みが実施されてきた。この3月には、メディア・リンクスによる架空取引事件などの多発を受けて、日本公認会計士協会が会計監査の留意事項を公表したばかり。しかし、これらの取り組みは、強制力がなかったり、ソフト/サービスという“目に見えない商品”の取引特性に十分に踏み込んだとはいえなかった。

 今回、経産省が企業会計基準委員会を巻き込んで、IT業界の会計処理にメスを入れる背景には、IT業界に対する株式市場の信頼感が低下していることがある。市場に評価されない業界に、経営や社会のインフラ構築を任せきれないというわけだ。経産省は今後、今回の取り組みに基づいて政府調達を実施するために、財務省などとも連携していく。

(矢口 竜太郎)