「ITを他人任せにしていては、企業は成長できない」――。米銀2位のJPモルガン・チェースは、こう判断して、米IBMとのアウトソーシング契約を解約した。アウトソーシングを見直す動きは、日本でも水面下で広がっている。本誌の調べでは、神戸製鋼所、日産自動車、ファンケルなど、少なくない数のユーザー企業が契約内容の見直しに着手していた。崩壊するアウトソーシングの実態を現場から報告する。

(大和田 尚孝)

 昨年9月15日、世界のIT業界に衝撃が走った。米銀2位のJPモルガン・チェースが、米IBMと結んでいた巨大アウトソーシング契約を解消するとのニュースが流れたからだ。2002年12月の契約締結時、IT業界の話題をさらった7年間50億ドル(5250億円)の超大型案件は、わずか1年9カ月で破談に至った。JPモルガンは今後、企画・開発から保守・運用に至る全IT業務を社内でまかなうインソーシング(自前主義)に完全回帰する。

 アウトソーシングを見直す動きは、日本でも水面下で広がっている。本誌の調べでは、神戸製鋼所、日産自動車、ファンケルなど、少なくない数のユーザー企業が契約内容の見直しに動いている。すかいらーくやりそな銀行などのように、アウトソーシング契約の解約を決めた企業もあった。

 アウトソーシングの裏側で、いったい何が起こっているのか――。これを調べるため本誌は、アウトソーシングを実施しているユーザー企業50社以上を徹底取材した。

 結果は惨憺たるものだった。各社のシステム担当者から聞こえてくるのは、「業績の回復に伴って、現場から新規のシステム化案件がどんどん出てくるのに、アウトソーシング先のベンダーはなかなか動いてくれない」といった愚痴ばかり。「アウトソーシング費用の内訳をいっさい知らされない現状では、ベンダーへの支払い額が妥当かどうか検証できない」、「最初はよくやってくれていたが、担当者が代わったら、契約を盾に融通をきかせてくれなくなった。アウトソーシング前よりサービスレベルは低下した」といった不満の声も数多い。そこにはアウトソーシング契約の締結当初に期待した“ばら色の未来”は存在しない。

 むしろユーザー企業とITベンダーが契約締結時に描いたアウトソーシングの成功モデルは、完全に崩壊したと言えるほどだ。責任の一端が「10年でITコストを2割削減できます」とか「“餅は餅屋”に任せていただいたいたほうが、御社のIT戦略を強化できます」とユーザー企業の経営層にささやき続けたITベンダーにあることは否定できない。だが一方で、アウトソーシングを「他人任せでIT強化を実現する手段」と誤解し、ベンダーをコントロールする努力を怠ったユーザー企業の側にも“責任なし”とはいえない。

 IT利用の巧拙が企業競争力を今まで以上に大きく左右する時代を迎え、ITを他人任せにする企業に明日はない。